第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
涙が一粒こぼれ落ちる。
もう、私は土方さんの【大丈夫】だけは信じない。
そんな私の想いが伝わったのだろう。
「なんて、女だ……」
土方さんはわずかに、口の端を釣り上げた。
「選ぶ女を、間違えたか……。これだから……江戸の女は、困る……」
「ええ、貴方の選んだ女はこういう女なんです。もう諦めてください。……だから、今は……」
私が言い終わる前に、土方さんは瞳をゆっくりと閉ざしていた。
まるで観念したと言わんばかりの彼に、私は苦笑を浮かべる。
「……勝手に、しやがれ……」
「ええ、勝手にしますとも」
弾き飛ばされた刀を手にした私は、土方さんに身を寄せてから刀で素早く腕を切り付けた。
鋭い痛みを感じれば、じわりと血が溢れ出してそれに私は口を付ける。
鉄錆の味が、口の中に広がる。
たっぷりと口の中に入れてから、私は彼の頬に両手を添えてから口付けた。
「……んっ」
土方さんの喉が鳴る。
口移しで血を飲ませていきながら、羅刹の本能が血を求めている事が分かった。
「……もっと」
再度、血を口に含んでから口付ける。
何度も何度も、口移しで私の血を彼に飲ませていった。
土方さんの傷が治るまで、彼の命を失わせない為に何度も。
(どうか……生きて……)
そして、また血を与えようとした時だ。
土方さんの手が私の腕を掴み、それを遮った。
「……土方さん」
「もう充分だ。……血も止まった」
死人のように青ざめていた彼の頬には、うっすらと赤みがさしているのに気が付いた。
声にも気力が戻っていて、私はほっ……と安堵の息を吐く。
「馬鹿な真似しやがって……。またてめえの身体を傷つけたのか」
土方さんは手を伸ばすと、私の口元についた血を指で拭ってくれた。
そんな彼に私は小さく微笑む。
「こんな傷、直ぐに治ります」
「そういう問題じゃねえんだよ」
「え?」
「誰が好き好んで、てめえの惚れた女に痛え思いさせてえもんか。……少しは察しやがれ」
彼の憎まれ口に私は笑ってしまう。
「だったら、貴方こそ察してくださいね。誰が好き好んで、惚れた男性が苦しむ姿なんて見たくないんですから」
「………………うるせえ」
拗ねたような口調は、まるで子供のようで私はまた笑ってしまう。
彼が少しだけでも回復してくれたことが、よく分かるからこそ嬉しくて、微笑みながら涙を流した。