第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「当たり前、だ……。新選組の名は、伊達じゃねえさ……。だが、悠長にしてられる場合でもねえ……。とっとと戻って……援護してやらねえと……」
「はい……そうですね。土方さんなら、大丈夫です」
それはまるで、私自身に言い聞かせているような言葉だった。
だが彼の痛々しい傷口からは、未だに血が溢れて止まってはくれない。
「……土方さんっ」
声が震える。
「土方さんっ!!」
このままでは、本当に駄目だ。
背中に冷や汗が流れ始めていき、私の視界がゆっくりと滲んでいくのが分かる。
土方さんは名前を呼んでも返事をしてくれない。
「土方さんっ!!」
「……わめくん、じゃねえ……。聞こえてる……」
やっと返事をしてくれた土方さんの声は、もう吐息と変わらないほどに弱々しい。
このままでは土方さんの命は、私の目の前で消えてしまう、土方さんが死んでしまう。
ゆっくりと脳内で警鐘が鳴り響く。
危険だと、私に知らせてくる警鐘に私の息は荒くなっていた。
(……そうだ)
ある一つの事が思い浮かぶ。
彼は羅刹なのだ、羅刹は血を飲めばいいのだ。
それなら、私がする事はもう決まっている。
「土方さん、私の血を飲みましょう……」
私の言葉に、彼の瞳が見開かれる。
だが私は彼の返事を聞かずに、腰に差していた刀を引き抜くと腕へと宛がおうとした時だった。
「やめろ!」
刀が、弾き飛ばされた。
動くのさえ苦しいはずなのに、土方さんは私が手にしていた刀を弾き飛ばしたのだ。
驚いて彼を見れば、眼光を取り戻していた。
そんな彼に私は思わず叫んでしまう。
「どうして……!どうして止めるんですか!」
「必要ねえ……じきに、治る。まだ死なねえって、俺は決めてるんだ。……言っただろうが、おまえが……生きる、理由だ。俺は……死なねえ。大丈夫だ……!」
「……その言葉は、信じません。生きたいと言ってくれた言葉は信じますが、貴方の【大丈夫】だけは信じません。信じないと決めました!」
「千尋……」
彼の【大丈夫】という言葉は【大丈夫】じゃないのだ。
ずっと土方さんを見てきた私には、そのぐらい分かるのだから。
私は彼を睨みつけながら、言葉を続けた。
「貴方が悪いんですよ。今まで、そうやって大丈夫じゃないのに大丈夫と意地を張って無理をするから。だから、私は信じない……貴方の大丈夫は」