第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
(良かった……近くに新政府軍の兵の姿がない)
そして、追いかけてくる兵もいない。
狙撃してきた兵は、落馬した様子を見て私と土方さんが死んだと思ったのかも。
だからといって長居はできない。
いつ見つかるか分からないのだから、直ぐに安全な場所に身を隠さなければ。
土方さんの身体を支えながら、私は近くの雑木林まで歩いた。
ここなら見つからないかもしれない。
「土方さん、大丈夫ですか?」
「……ああ。まだなんとか、生きてるさ……」
土方さんの身体からは血が溢れ続けている。
顔色は青ざめていて、まるで死人のように血色が良くない。
額には汗を浮かばせていて、苦しげに眉を寄せていた。
私は、自分の手や洋服が血に染っているのに気が付く。
その染まり具合から、土方さんの出血の多さが理解出来る。
「……土方さん、近くに敵の気配はありませんので今のうちに止血だけしましょう」
「……ああ……頼む……」
息を呑みながら、私は彼が身につける洋服を傷に障らないように慎重に脱がせていく。
そして腹部に一発、銃弾の跡があるのが確認できた。
(忌々しいぐらいに、正確に撃ってる……)
その傷口から真っ赤な血が流れ続けていた。
あまりにも酷い傷口に、私は唇を噛み締める。
「ひどい……」
小さく呟きながらも、背中を確認すれば背中にも銃痕があった。
どうやら銃弾は身体を突き抜けたようで、そのことに少しだけ安堵する。
「土方さん、水を汲んできますからここで待っていてください。直ぐに戻りますから」
私の言葉に、土方さんは力無く頷く。
そして急いで私は近くの川で水を汲んでから土方さんの元に戻り、傷口を洗って応急手当をした。
あくまでもこの応急手当はその場しのぎ。
五稜郭に急いで戻って、ちゃんとした手当をしなければいけない。
「土方さん、動けるようになりましたら一度、五稜郭に退きましょう。戻って手当をして、体勢を立て直さないと」
だが、土方さんは返答しない。
「土方さん……?土方さん、聞こえてますか?」
「……ああ……聞こえてる……。そうだな……俺一人乗り込んで、どうにかなるもんじゃねえ……」
「……はいっ」
声をかけなければ、土方さんは意識を失ってしまう。
「大丈夫ですよ、土方さん。島田さんたちなら、そう簡単に負けたりしませんから。ちゃんと土方さんを、待っていてくださいます」