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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】


「そうしたら先日、この絵が送られてきて……。見た瞬間、土方さんにお渡しするべきだと……そう思ったんです」

彼の言葉を聞いた土方さんは、再び手の中にある錦絵と目を落とす。
そして、土方さんは小さく微笑んだ。

「……こいつは受け取っておく。大義だったな、相馬」

その言葉に、相馬君は土方さんに深く一礼する。
そして私にも軽く会釈をすると、部屋を後にした。
やがて土方さんさ、錦絵を見ながら苦笑混じりのため息を吐き出す。

「……妙な偶然も、あるもんだな」
「その絵は……?」

私がそう尋ねると、土方さんは手にある錦絵を私に差し出した。
それを受け取った私は、錦絵を見た瞬間息を呑んだ。

激しさも思わせる筆致に描かれた錦絵。
その錦絵には凄絶な存在感がひしひしと伝わり、心に迫ってくるような感覚を味わう。

「これは……羅刹の、あの時相馬君が持っていた絵ですか?」

初めて相馬君と会った時に彼が持っていた絵。
白い髪の毛に赤い瞳を持つ、一人の羅刹が描かれた錦絵。

錦絵に描かれた羅刹の瞳には、殺意や狂気では無い諦念を帯びた年少を見守るかのような優しい光が宿っている気がした。

「この方は……」
「新選組……いや、俺たちがまだ壬生浪士組って呼ばれてた頃、局長だった人だよ」
「局長……。近藤さん以外にも、居られたんですね」
「……ああ。とんでもねえ人だったぜ。商家を脅して金を巻き上げるわ、酒かっ食らって島原で狼藉を働くわ……。あの人……芹沢さんが生きてた頃は、心が休まる時間なんてただの一刻もなかったもんだ」

私は少しだけ困惑した。
土方さんが語る芹沢さんの印象と、この錦絵に描かれた優しげな芹沢さん。
何一つ結びつくことが無いのだから。

「毎日毎日知恵を絞って、どうやって芹沢さんを出し抜くか……それだけを考えて時、あの人は言ったんだ。本気で近藤さんを押し上げてえんならーー【鬼になれ】ってな」
「……鬼」
「……その言葉通り、俺は、羅刹になった芹沢さんの命を奪った」

私は、再び錦絵に目を落とす。
【近藤さんを本物の無事にしたい】という、土方さんの気持ちや覚悟はよく分かっていたつもりだった。
だけど、かつての局長だった人をも手にかけた事を知り、その苛烈な思いに改めて気付く。

「妙な話なんだが……芹沢さんはあの晩、俺に殺されることを知ってたような気がするんだ」
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