第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「泣き虫だな、おまえたち姉妹は。そんなに涙ばっかり流してると、そのうち干上がっちまうぞ」
彼の言葉に苦笑を浮かべるけれど、ある事に私は気が付いた。
一人だけその場に居ないことに気が付き、私は視線をさ迷わせながら姿を探す。
「あの、土方さん。野村君は……?姿が見えませんが」
「あ、本当だ。相馬君、野村君は?」
私と千鶴の言葉に、何故か皆は悲痛な表情になる。
その表情に嫌な予感がして、心臓が嫌な音を鳴らし出した。
やがて、相馬君は泣き出しそうな表情になると唇を強く噛んでから答える。
「野村は……、亡くなりました」
「…………え?」
「真っ先に敵艦に切り込んでいったのですが、撤退が間に合わず……」
「うそ……」
野村君が、亡くなった?いつも笑いながら【帰りました!】と言ってくれる彼が。
ぽっかりと心に穴が空いた気がして、酷くそれが傷んで瞳から涙が零れ落ちていく。
私は、あと何度この知らせを聞かなければいけないのだろう。
見知った大切な仲間の死の知らせは、この蝦夷地では初めてだった。
「……野村君はずっと、近藤局長をお守りできなかった事を悔いていました。あの世に逝った時に、恥じることなく局長にお会いしたいと……、口癖のように言っていました。彼は、本望だったと思います。……立派な最期でした」
鋼鉄艦奪取作戦は失敗だった。
出港した艦船の一つは失われ、優秀な艦長が一人戦死したと聞く。
そして、野村君までもが……。
「……箱館を離れるなら、今のうちだぜ」
あれから、私は土方さんの部屋にいた。
野村君が亡くなったという知らせで、心にぽっかりと穴が空いていた私に彼は、何とも酷い言葉を言う。
「ロシアからイギリスの商船に話をつけてやる。おまえと姉ぐらい逃がすくらい、どうってことねえさ」
きっと、新選組と旧幕府軍は負けてしまう。
そう分かっているから、土方さんは今のうちにと私と千鶴を箱館から遠ざけて安全な場所に苦そうとしてくれてるいるのだろう。
そして、土方さんはこの地で死ぬつもりだ。
それが分かっていて、私はこの地から離れるつもりはない。
「何度聞かれても、言われても私の答えは変わりませんよ。……貴方のお傍にいます」
彼の心遣いは嬉しい。
だけど、もうその心遣いで置き去りにされたり突き放されたりはしたくないのだ。
もうそんなのは懲り懲りである。