第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「ああ。てめえの命をかけることに迷いはねえ。ただ、かける場所を間違っちゃいけねえ。……そう思うようになった」
「……だとしたら。私の存在に意味があるというなら、嬉しいです」
その嬉しさは、女としての喜びじゃない。
土方さんがこれまで歩んできた道程を追いかける中で、託された数々の思い。
その象徴として私が、認められたという事が嬉しいのだ。
「……おまえには、苦労ばかりかけるな」
「そうですね……。でも、私のなんか土方さんが背負っていらっしゃるものよりずっと身軽ですよ」
「それでも、一人の女が背負うにゃ重すぎる荷物だぜ」
「私が、そのぐらいで負ける女と思っているんですか?私は、貴方の小姓なんですよ」
「……そうか」
私の言葉に土方さんが微かに微笑む。
さっきまで彼が纏っていた厳しいものは、いつの間にか消えていた。
すると彼は窓辺から離れると、ゆっくりと私の方へと歩み寄る。
土方さんは私の目の前に立つ。
すると、彼は柔らかい笑みを浮かべながら私にある事を頼んできた。
「千尋。気がわかった」
「え?」
「何か、食わせてくれるか。できればおまえが作ったものがいい」
「え……」
「なんでもいいから持ってこい。ただし、美味いものを頼む。おまえの手料理に、新選組の命運がかかってると思え」
随分、懐かしい言葉だと思った。
まだ京にいた頃、彼に同じことを言われたことを思い出してつい笑ってしまう。
「はい。新選組の命運の為に、美味しいものを作りますね」
「ああ、頼んだぞ」
そして、蝦夷地にだいぶ遅いけれども春の気配を感じ始めた三月後半。
新政府軍の艦隊がとうとう、この蝦夷にやってきた。
その艦隊は、宮古湾に停泊するらしく、多くの艦隊を持たない蝦夷共和国は、その旗艦を奪い取る作戦を立て始める。
作戦の実行には土方さんも参加する。
土方さんだけじゃない……相馬君と野村君に島田さん達も参加する事が決定した。
私と千鶴は、五稜郭で留守を命じられ、彼らが無事に帰ってくることを二人でただ祈っていた。
そして……
「土方さん、相馬君、島田さん!」
彼らが五稜郭に帰ってきた。
私と千鶴は無事に帰ってきてくれたのが嬉しくて、彼らの元に駆け寄る。
「よくぞご無事で……」
つい、私と千鶴は泣いてしまった。
彼らが帰ってくるまで、どうも生きた心地がしなかったから。