第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「おい、おまえら……。人の部屋で甘い雰囲気を出すのは辞めろ。自分たちの部屋でやれ」
呆れたようにため息を洩らした土方さんの言葉に、相馬君と千鶴は身体を跳ねさせて顔を真っ赤に染めていく。
二人が結ばれたのは嬉しいけれど、身内の甘い雰囲気を見るのは些か気まずい。
そして相馬君と千鶴は部屋を出ていき、土方さんは再度ため息を洩らす。
呆れたようにしているけれども、あの二人の雰囲気に嫌気がさしているという訳ではなさそう。
「相馬も、雪村姉も心底惚れあってんだな」
「そうですね」
「……相馬を、この戦で死なせれねえな。雪村姉が泣いちまうし、泣かせたらおまえに怒られそうだからな」
「別に……怒りませんよ、多分」
「多分、なあ?」
「でも、怒るなら……土方さんが死んでしまった時かもしれませんね」
土方さんが死んでしまえば、私はきっと絶望してしまうだろうけど同時に怒るだろう。
何で……と、怒りと悲しみでぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。
「……怒られねえようにしねぇとな」
「お願いしますね」
どうか、誰も死なないでほしい。
それは甘ったれた願いかもしれないけど、もう誰一人仲間が欠けては欲しくなかった。
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ー明治二年・三月ー
三月に入り、春の季節が訪れる前のこと。
五稜郭に、新政府軍の艦隊が攻めてくるという報が届いていた。
旧幕府軍の海軍は、蝦夷地攻略の際の旗艦だった開陽丸を失っている状態。
しかも、次の戦でやってくる新政府軍の艦隊には、開陽丸を上回る新型の船が加わっているらしい。
蝦夷地共和国の面々が悩んでいるのは、このことだった。
(……遅くまで、会議が続いてる)
その日の夜、土方さんの部屋では遅くまで会議が続けられていた。
私は会議には参加出来ないので、外で待っていると部屋の中から会議に参加していた島田さんが出てくる。
「雪村君、会議が終わりましたよ」
「あ、お疲れ様です、島田さん。……今日は、長くかかりましたね、会議。皆さん、お腹が減っていらっしゃるでしょうか?土方さんに、何か食べ物を持っていくべきでしょうか……」
「いえ、今はやめておいたほうが良いでしょう」
「……え?」
「今の会議で、土方さんはずいぶんと機嫌を損ねられた様子ですから……。今は、お一人にしておいた方がよろしいかと」