第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
それは、土方さん達が必要とされない時代。
彼らが今まで築きあげた物が消えてしまうということに、不安と悲しみが大きくなった。
あの後、私たちは身体が冷えてしまってはいけないと直ぐに部屋に戻ってきた。
外に比べたら、部屋の中はいくぶん暖かいし、温かいお茶を用意しようかと思っていた時、不意に土方さんが表情を強ばらせる。
「うっ……!」
「土方さん!」
彼の髪は白に染まり、瞳は赤く変色する。
土方さんの身体を、変若水は今も苦しませているのだ。
「……蝦夷地に来てからは、ずいぶん調子が良かったんだがな。俺の身体も、そろそろガタがきたようだ。……せめて春まで持ってくれると、ありがてえんだがな」
「そんな事、言わないでください!また頬を引っ叩きますよ!?それに、私が何で土方さんのお傍にいると思っているんですか……?」
土方さんを睨み付けた私は、襟元をくつろげると彼に近寄る。
そしてまた彼を睨むように見上げながら、彼の手を強く握り締めた。
「春までなんて、言わないでください。貴方には、まだ生きてもらわないと……生き続けてもらわないと困るんですから。逃がすと、思わないでくださいね?」
「……怖え女だな、おまえは」
「貴方を、生きる事に縛り付けれるのなら、いくらでも恐ろしい女になりますよ、私は」
土方さんが微笑みながら言った言葉に、私も微笑みながら返した。
そして彼は私の肩に手をかけ、小太刀で首筋を切り付ける。
ちりっとした痛みはもう、随分と慣れた。
そして首筋に触れる、彼の吐息も彼の熱い舌の温度にも随分慣れた気がする。
「……こうして血を飲むのは、久し振りだな」
その言葉に、少しだけ目を見張る。
私が居ない間に、彼は血を飲まなかった……いや飲めなかったのだ。
「……飲まなかったんですか?血を」
私の問に土方さんは答えない。
羅刹にとって、血はかなり重要というのに……と思いながらも、土方さんの【春までは】という言葉を思い出した。
土方さんは自分の身を軽んじている。
もう少し、自分の身体を大切にしてほしいのにと私は小さくため息をはいた。
(意地っ張りで、本当に困った人……。でも、そんな所も愛しいと思う私も、困ったものだなあ)
自身に呆れたように笑う。
そして、彼が私の血以外を飲んでいなかったことを知って喜んでいる自分がいることにも呆れる。