第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
だけど、三ヶ月で松前藩を降伏させたという事実は旧幕府軍部隊の精強さを物語っていた。
敗報続きだった旧幕府軍に、明るいものをもたらしたはずだ。
「蝦夷に来てから、土方君は少し変わったよ」
「え……?変わった?」
「部下たちにはとても優しくなったけど、自室に閉じこもっていることが多い。そういう時は、決まって物思いに沈んでいてね、傍に誰も寄せつけようとしない」
「そう、だったんですね……」
土方さんがそうなっていたとは知らず、私は眉を下げながら驚いていた。
すると大鳥さんはそんな私に、ある一通の書状を差し出す。
「きっと、彼には君が必要なんだよ」
「私が……必要ですか……?」
「ああ。それに、彼は君がいないと無理な仕事の仕方ばかりするからね。やっぱり君が居なければ、あの人は駄目だよ」
くすりと笑う大鳥さんに、私は胸が熱くなり彼から書状を受け取る。
「この書状は、僕からの辞令だよ。細かいことは土方君に渡せばわかるはずだから」
「はい……ありがとうございます」
書状を抱きしめるようにしながら、私は彼へと再び深く頭を下げた。
彼には何度お礼を言っても足りないぐらい、本当にお世話になっている。
いつか、恩返しが出来ればいいのだけど。
そして、年の瀬も押し迫った頃。
私は慣れない洋装に着替えると、五稜郭と呼ばれる場所までやって来た。
(洋装の服、動きやすいけど違和感があるなあ……)
今宵、多くの人々が広間に集まっているらしい。
新政府樹立の祝杯を挙げているらしく、だけど土方さんは集まりに参加せずに、部屋に閉じこもっているとのこと。
大鳥さんに、土方さんの部屋を教えてもらった私は、彼の部屋の前で深呼吸をしていた。
緊張で心臓が強く鳴り響いているのを聞きながら、ノックと呼ばれるものをする。
(大鳥さんが、西洋風の扉を開ける時はこうして扉を叩いて合図するのが礼儀って言ってたけど……)
これで、合ってるのだろうか。
そう思っていれば、部屋の中から突き放すような声が聞こえた。
「……絶対に出席しねえって言っただろ?今は、浮かれてる場合じゃねえんだ」
なんて、懐かしい声なんだろう。
土方さんの三ヶ月ぶりに聞いた彼の声に、私は懐かしさが込み上げてくる。
そして私は、ドアノブに手をかけた。
「……失礼します」
扉を開ければ、中には土方さんが背中を向けて立っていた。