第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
大鳥がそう告げた瞬間、肌を刺すような視線を感じる。
その視線を辿るようにすれば、土方が鋭い目付きで大鳥を睨み付けていた。
「……そんな目をするぐらいなら、君はあの子を置いてくるべきじゃなかったよ。じゃあ、僕は仕事があるからもう行くよ。ああ、そうだった、相馬君。榎本さんが呼んでいたよ」
「あ、はい!直ぐに向かいます。それでは土方陸軍奉行並、失礼します」
部屋から二人が出ていくと、土方の部屋は一気に静かになる。
騒がしいのが消えたな……と土方はため息を吐いてから、仕事を続けようとした時だった。
『土方さん、また無茶されて!ちゃんと休んでくださいと何度も言えば分かってくれるんですか!?』
ふと、千尋の声が聞こえた気がして土方は目を見開かせてから書類から顔を上げる。
だけどそこには千尋の姿はなかった。
幻聴だった。
そう気が付いた土方は『はっ……』と喉を鳴らして自分を嘲笑うかのような笑いを零す。
「……未練がましいぜ、本当に。自分で、アイツを突き離したっつうのに……」
この幻聴を聞くのはもう、何度目か。
土方は片手で顔を覆ってから、仰け反るような体制になる。
蝦夷地に来てから、もう何度も千尋の幻聴が聞こえる。
吸血衝動になった時は、彼女の幻影まで見えてしまっていた。
「……くそったれ」
自身で突き放したというのに、自分の傍にいれば彼女が幸せにならないと思ったからこそ置いてきたのに。
今でも土方は未練がましく千尋の幻影に幻聴を見てしまう。
「……千尋」
短く、彼女の名を呼ぶ。
だが返事をしてくれる者は誰もいない。
土方はただ、虚しい思いを抱えながら顔を歪めた。
彼女は今、どうしているのだろうか、誰かと居るのだろうかと思いながら……