第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「じゃあ、千鶴は蝦夷地に行きなさい」
「……え?」
「命令されていないんだもの。別に同行したって、土方さんは文句も言えないはずよ。命令していないんだから」
私の言葉に、千鶴は大きく目を見開かせた。
きっと千鶴だってここには残りたくないはず、相馬君の傍にいたいはずだから。
土方さんに命令されたわけじゃないんなら、蝦夷地に向かったって大丈夫なはず。
多少は怒られてしまうだろうけど。
「相馬君」
「……はい」
「千鶴を、離したりしないよね?君は、大切な人を置いていく?」
私の言葉に相馬君は一瞬だけ目を見開かせたけれども、直ぐに決意したような瞳をして首を左右に振る。
「俺は、雪村先輩を……姉君を連れて行こうと思います。俺は、雪村先輩を離したくないですから……。離れてしまい、後悔したりまた苦しい思いをしたりはもう二度としたくありませんから」
相馬君の決意が籠った言葉に、私は微笑んだ。
そして千鶴は顔を真っ赤に染めていて、二人は恐らく想いが通じあっているんだと確信する。
千鶴には幸せになってほしい。
これ以上、悲しいことや辛いことを味わってほしくないから。
それに、想っている人と離れるという苦しさは尚更体験してほしくない。
「……相馬君、千鶴を……どうか宜しくお願いします」
「……はい!」
「でも、千尋先輩はどうするんだ?ここに残るのか?」
「雪村君……千尋君は僕が蝦夷地に呼ぶよ」
今まで話を静かに聞いていた大鳥さんが、そう告げて野村君は目を見開かせた。
「だから、安心してくれていいよ」
「本当ですか!大鳥歩兵奉行!?」
「ああ。それに、土方君には彼女がきっと……いや、絶対に必要だと思うからね。だから千尋君、僕が呼ぶまで待っていてくれ」
「はい。呼ばれたら直ぐに蝦夷地に向かって、もうあの人の傍を離れませんから」
私はそう言って微笑みを浮かべた。
そして、私は千鶴へと視線を向けると彼女の手を握ると千鶴も握り返してくれる。
「少しだけの、お別れだね、千鶴」
「うん……でも、きっと直ぐに会えるよ。蝦夷地で、絶対に会おうね」
「うん」
今は、暫くのお別れ。
土方さんはきっと、私が追いかけて来るなんて思っていないだろう。
蝦夷地に行けたら、驚かしてもう傍から離れない。
そう決意しながら、私は蝦夷地に向かう彼らを見送ったのだった。