第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「話は、聞かせてもらったよ」
そういえば、彼も榎本さんと合流する為にこの道を通る事を思い出した。
久しぶりに会う大鳥さんは、激戦を潜り抜けた為か前よりも凛々しく、そして頼もしく見える。
「……悪いとは思ったんだけど、声をかけるきっかけがつかめなくてね」
大鳥さんは少しだけ目を伏せながらも、洋服に備え付けられている【ぽけっと】という所から白い布切れを出すと、私に渡してきた。
その差し出されたものに、私は数回瞬きしてから大鳥さんへと視線を向ける。
「あの、これは……?」
「ハンケチーフっていう西洋の手拭いだよ。……君の涙を拭き取るのに使ってくれないかな」
「……ありがとう、ございます」
戸惑いながらも、人の好意を無下にする事も出来ずに私はそのハンケチーフというものを受け取った。
柔らかく白い布で、私は目元の涙を拭いながら荒ぶっていた感情を落ち着かせる。
私が、何度も涙を拭いながら落ち着くまでに大鳥さんは静かに待っていてくれた。
そしてやがて、私の涙が止まった頃に大鳥さんは口をゆっくりと開く。
「君は、土方君の傍にいたいんだね」
「……はい」
「なら……、待っていてくれるかな。僕たちが蝦夷地を平定するまで」
「……え?」
大鳥さんの言葉に、私は大きく目を見開かせた。
「僕が、君を蝦夷に呼んであげるよ。泣いている女の子は放っておけないからね!」
「大鳥さん……」
「ああ、礼は言わなくていいからね。君が蝦夷地に着いたら、土方君の傍で死ぬまで働いてもらうことになるんだから」
彼の言葉に、私はまた泣いてしいそうになった。
お礼は要らないと言われたけど、私は彼へと深く深く頭を下げる。
「ありがとう、ございます……大鳥さん」
そう、お礼を告げていた時だった。
背後から走ってくる足音が聞こえ、私はなんとなくそちらへと振り向く。
視線の先には、こちらに走ってくる相馬君と野村君に千鶴の姿があった。
「雪村先輩!」
「千尋先輩ー!!さ、さっき、土方副長から話を聞いて!先輩を、ここに残すって……。それで、千鶴先輩もここに残れって」
「千鶴も、言われたんだね」
「うん……」
「……千鶴、副長命令で、残れって言われたの?」
そう、千鶴に聞くと彼女は戸惑った表情を浮かべながらも首を左右に振った。
つまり、千鶴は副長命令で残れとは言われていないとのことだ。