第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
彼の言葉は、嘘偽りもないと分かる。
宥める為の嘘じゃなくて、本当に心の底から思ってくれるんだと嬉しくなった。
だけど同時に、彼の気持ちは私を苦しくさせて悲しくもさせていく。
「これは、新選組副長としての命令だ」
「……命令」
土方さんは私を真っ直ぐに見つめながら、そう冷静な声色で伝える。
「ーー蝦夷地への同行は許さねえ。おまえの存在は、俺たちの存在の邪魔になる」
その言葉に、私は何も言えなくなった。
心臓が嫌な程に傷んで、身体も強ばって喉から声が出てきてくれない。
身体は震えて、真っ白に成程に握った手に涙が落ちた。
だけど、土方さんは表情を変えない。
そして酷いぐらいに優しい眼差しで、私をただ見つめてくる。
「おまえは女として生きろ。これ以上、俺たちに縛られるな。……姉と共に、女として何も縛られずに」
「……土方、さん……」
嫌です、その命令は聞けません、お傍にいます、待ってください。
色んな言葉が浮かんでくるのに、どれも私の喉からは出てこようとしなかった。
「……達者で暮らせ。以上だ」
小さくそう呟いた土方さんは、私に背中を向けた。
そして彼はもう、私には何も言わずに歩き出して、彼の背中と足音がだんだんと遠くなっていく。
ずっと追いかけ続けて、ずっと見てきた背中が遠のく。
「いや、です……土方さん……」
酷く弱々しい声しか出なかった。
私の声はもう土方さんには届かない、彼が私の言葉でもう振り向くことはない。
やがて、土方さんの背中は見えなくなった。
その事に私は顔を俯かせて、小さく嗚咽を漏らしながら泣き続ける。
「土方、さん……」
私の心の中にあるものが、崩れていく。
そして残るのは大きな空虚みたいなものであり、そしてぽっかりと穴が空いたように痛む。
(貴方の傍に居れるのなら、何も要らないのに……)
苦しくて苦しくてたまらない。
初めて味わうその苦しさと痛みに、やがて息が出来なくなってきた。
(私はもう、土方さんには必要ないんだ……。要らないと、邪魔になると……)
はらはらと零れる涙。
それを拭うように、両手で顔を覆っていた時だった。
「あの、さ……。雪村君……」
「……大鳥さん?」
遠慮がちな声が聞こえ、ゆっくりと振り向けばそこにはバツの悪そうな大鳥さんが立っていた。