第3章 巡察【共通物語】
武田さんの事を報告すれば、土方さんは難しい顔をしながら何かを考えていた。
たが、直ぐに私の方を見てから言う。
「今日見たことは誰にも話すな。おまえの面倒を見ている幹部隊士たちにもだ。いいな?」
厳しい声音は有無を言わせない気配があった。
そのせいなのか、自然と私は頷いたが土方さんはまだ厳しい表情のまま。
「言わなくてもわかってるとは思うが……、事情を知らねえ隊士には決して気を許すんじゃねえぞ。新選組も一枚岩じゃねえ。特に武田の野郎は、おまえ達の事情を知らされていねえからな」
「はい」
「で、おまえを助けてくれたその侍っつうのはどこの誰だったんだ?」
土方さんにそう聞かれて、私は直ぐに名前を聞くのを忘れていた事に気が付いた。
「な、名前聞くの忘れてました……」
「はあ?それじゃ、礼のしようとねえじゃねえか!」
「うう……」
「まあ、いい……。どこかで見かけたら、今度こそ名前を聞いておけ」
「はい……」
でも、あの人は何故か名乗っていないのに私の名前を知っていた。
何処かでお会いした事があるのだろうかと思いながらも、思い出せないまま。
だけどあの人の顔は何処か懐かしくて、何処かで見た覚えがあるのだ。
あのお武家さんの事を考えていれば、土方さんが私を見ている事に気が付いた。
そして目が合うと、土方さんは直ぐに逸らしたけれど言葉をかけてくれる。
「……親父さんのことは、残念だったな。さっきも言ったが、斎藤か姉達が何か手掛かりをつかんでくれてるといいんだがな」
「そう、ですね……」
斎藤さんか、千鶴達が何か手がかりを掴んでくれていますように……。
そう祈りながら、私は土方さんの背中を追いながら屯所へと急いだ。
屯所に戻って直ぐのこと。
私達を出迎えたのは少し厳しい表情をした原田さんで、【直ぐに広間に来てくれ】と言われて、土方さんと共に広間へと向かった。
そこには千鶴と他の幹部さん達の姿があったが、一人知らない男性もいる。
相馬主計。
彼は、千鶴が同行した原田さん達の巡察で出会った青年らしい。
だが、彼を取り囲む幹部の皆さんの目は厳しいものだった。
まるで、私と千鶴がここに来たばかりの時のようだ。
「……で、この絵を描いたのはどんな奴なんだ?」
「知らない」
「おい。さっきは知り合いの絵師だって言ったじゃねえか」