第3章 巡察【共通物語】
そう言うと、お武家さんは曇り空を見上げて小さく呟いた。
彼のその表情はどこか悲しそうであり、私はその表情を見て小さく首を傾げる。
「でも……新選組は、ずいぶん評判が悪いみたいですね。さっきのようなことをしてたら仕方がないのかもしれないけど」
「それは……」
確かにそうだ。
あんな事をしていれば評判が悪くなるのは当たり前。
でも、私が五ヶ月の間見てきた新選組の人達は全員武田さんのような人達では無いと思う。
「……新選組の方、全員がああいう事をしている訳では無いと私は思います。でも、やはり色んな人はいますから、ああいう人もいるというだけで……」
「……知っています。僕も、あの人が新選組を代表してるとは思ってないですから」
まるでこの人は新選組の人達を知っている様な口ぶり。
もしかして、新選組の人達で知り合いがいるのだろうかと思いながらも、会話が途切れてしまった。
そして会話が途切れている間も、何故かお武家さんは私の顔をじっと見ている。
彼の瞳は、何故か懐かしいものを見ているよう。
そして優しさが篭ってもいた。
「あの…、私の顔に何かついてるでしょうか?」
「いえ……すみません、じっと見てしまい。それでは、僕はそろそろ行きますね」
「あ、申し訳ありません。引き止めてしまって」
「いえいえ、気にしないでください。……久しぶりに会えてよかったよ、千尋ちゃん」
「……え」
何故、私の名前を知っているのか聞く前にお侍さんは背中を向けて歩いて行ってしまった。
どうして彼は私の名前を知っていたのだろう…それに、直ぐに私を女と気付いていた事に驚いてしまう。
でも、私の名前を呼んだ時のあの声はどこか聞き覚えがあった。
「どこで、聞いたんだろう……」
そう考えていると、待ち人である土方さんがこちらに戻ってくるのに気が付いた。
「少し待たせちまったな。どうだ、綱道さんの情報はなにかあったか」
「いいえ……なにも」
「……そうか。まあ、そう簡単に足取りがつかめるわけはねえ。気にするな。それに、姉の方は何か情報を掴めてるかもしれねえしな」
「そう、ですね。そうだと良いですが」
その後、私と土方さんは屯所へと戻る為に帰り道を歩いていた。
そして歩いている最中に、先程の出来事を土方さんに報告する。
「武田が、そんな真似を?」
「はい……」