第13章 雪舞う大地で貴方と【土方歳三編】
「会津、仙台が新政府に降ったとしても、あの人の傍にいりゃ、悪いようにはならねえはずだ」
「……そんな事、言わないでください!まだ負けると決まったわけじゃないのに!」
「戦いってのは、勝った時と負けた時、両方に備えておくもんだぜ」
私は戦については詳しくないから、土方さんの言葉に少しだけ納得する。
すると、土方さんは障子戸の外を見あげたからぽつりと呟いた。
「松本先生も、もうすぐ仙台に来るはずだ。そうしたら……」
それだけを呟くと、土方さんは言葉を途切らせる。
その途切れ方に、何故か不安が心の中で大きくなっていくのを感じた。
この不安はなんだろうと思っていれば、土方さんは静かに首を振る仕草をする。
「……いや、何でもねえ。独り言だ」
「そう、ですか……」
何を、考えていたのだろう。
そう思いながらも、不安は大きくなっていくばかりだった。
「……おまえは、もう少し休んでろ。俺は、仕事があるからもう行く」
「……はい。ご迷惑をおかけしました」
土方さんが部屋を出ていくのを見送り、暫くすると入れ違いのように野村君が部屋に入ってきた。
「千尋先輩、意識が戻ったんすね!良かった!」
野村君の手には湯呑みと薬袋が置かれたお盆が握られていた。
その薬は私が飲むのかなと思いながら、心配してくれた彼にお礼を述べる。
「心配してくれて、ありがとう。野村君」
「すげぇ心配したんすよ?土方副長がすっごい慌てて宿に戻ってきたんすから。千尋先輩を抱えたいて、顔真っ青にさせながら大声で言ったんすよ。【早く雪村姉を呼べ!雪村が倒れたんだ!】って見た事ないぐらいに焦ってましたよ」
「……土方さん、焦ってたの?」
「もう滅茶苦茶焦ってましたよ!あんなに焦ってる土方副長、すごい珍しかったから俺も相馬も驚きましたよ」
野村君の言葉に、少しだけ驚く。
そんなに土方さんは私が倒れたことに焦っていただなんて、思いもしなかったから。
「土方副長、千尋先輩の事すげぇ大事に思ってるんですねえ。俺が倒れてもあんなに心配はしてくれなさそう」
「……それは、無いんじゃないかな。野村君が倒れても、心配してくれるよ」
「そうかなあ?でもなんか、土方さんって千尋先輩と居る時は穏やかなんすよねえ……」
「……そう、かな」
そうだったら、嬉しいと私は思った。