第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
綱道父様は、純血の鬼ではない。
人の血が多く混じった鬼であるが為、この怪我は直ぐには治らない。
彼が負った傷は、致命傷とも言える傷だった。
私は唇を噛み締めながら、言葉も出せずに小さく頷く。
そして千鶴は、泣き出しそうになりながらも無理矢理に笑顔を作っていた。
「大丈夫よ。……どこも痛くないから。ね、千尋」
「綱道父様、大丈夫よ。綱道父様が……庇ってくれたから……」
私と千鶴の声は震えていた。
怪我は酷いはずなのに、綱道父様はとても穏やかな顔をして私たちを見ている。
「……羅刹の研究は、失敗なのだよ。未来がないことぐらい、本当は、私もわかっていた……」
「父様……」
「どうしても諦められなかったんだ……。一族を、お前たちの家を、復興させたかった。そして、変若水で一族を復活させる……そう断言出来ると確信した時に、千尋……お前に伝えようとしていた」
その言葉に、私はやっと納得した。
父様が、江戸にいた頃に『何時か知ることになる』と私に言った理由はこれだったんだと。
「千尋は……お前は、雪村の里での悲劇をずっと覚えていた。思い出しては泣き、苦しそうにしていた。だから、復興できると知らせた時に、お前が喜んでくれると思ったんだ……。そして何時か、里の事を思い出した千鶴が苦しまないようにと……復興させて、またお前たちがあの里で笑顔でいてくれたらと……」
綱道父様の言葉に、涙が溢れ出す。
何時も、綱道父様は本当の娘じゃなくても私たちの事を常に思っていてくれた。
「私は、羅刹と共に消え行く運命なのだろう。……大きな罪を、生み出したのだからね」
綱道父様の声は、どんどん力が失われていた。
「これで……、良かったんだよ。だから泣かないでくれ、千鶴、千尋……。千鶴、幸せになるんだよ。そして千尋……お前は、お前の思うがままに生きなさい。命懸けで守ろうとしなくていい。お前の命はお前の為に使いなさい……千鶴と共に」
私たちは無言で、大きく頷く。
声を出してしまえば、泣き叫んでしまいそうだったから。
そして、涙を止めようとしても溢れていき綱道父様の着物を濡らしていた。
やがて、綱道父様は笑みを浮かべると、二度と覚めることの無い眠りについた。
まだ、暖かい綱道父様の手を握りながら私は千鶴を抱き締めた。