第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「研究を推し進める為、時には自らの手も汚してきましたが……」
山南さんの瞳は自虐的に揺らぐ。
彼が今まで取っていた不審な行動派全て、羅刹化した隊士立ちを救うためだった。
「羅刹には未来がありません。綱道さんも、わかっているでしょう?たとえ日の光の下で動けるようになっても、力を使えば寿命は削られ、血に狂う衝動も消えてはくれない……。……私たちは、時代の徒花なんですよ。羅刹は生み出されてはならないものでした。もう、終わりにしましょう」
ずっと、山南さんの真意が分からなかった。
何時も不審な行動を見せていて、彼の行動に何度も何度も不安になっていたけど、彼は彼なりに羅刹となった隊士たちを救おうとしていたのだ。
だけど知ってしまった。
羅刹が救われる術は無いと知ったから……。
山南さんの真意が分かった事に驚きがあったけれども、同時に打ちひしがれる。
(どうやっても、羅刹は救わないの……?)
土方さん、相馬君、山南さん、平助君。
そしてここにいる羅刹たちは救われる事は出来ないのだろうか、もう全ての望みは消えてしまったのだろうか。
そう、俯きながら考え込んでいた時だった。
「がああああっ!」
視線の先に、羅刹が千鶴へと刀を振り下ろそうとしているのが見えた。
「千鶴!!」
走り出した私は、千鶴の身体を抱え込むようにしてから羅刹に自身の背中を見せるようにした。
そして、訪れるだろう痛みに目を強く閉じる。
背後で切り裂かれる音が響く。
だけど、私の身体には痛みが襲ってくることもなく、目を開き振り向けば、鮮やかな血が舞っていた。
私のではない、真っ赤な血が。
「……え?」
舞っていた血は、綱道父様のものだった。
私と千鶴を庇うように、羅刹の目の前に立つ綱道父様のもの。
「ーー父様っ!?」
「綱道父様!!」
崩れ落ちそうになる綱道父様の身体に、千鶴と私は手を伸ばす。
そんな私たちに、羅刹は再び刀を振り上げていたけれど、目の前でその羅刹ら綺麗に両断されていた。
「何、よそ見してやがるんだ?てめえらの相手は、俺たちだろ」
土方さんが、助けてくれた。
そして両断した羅刹に吐き捨てると、私たちに背中を向けてから刀を構え直す。
「千鶴……千尋……、大丈夫か……?どこも、怪我はしていないか?」
綱道父様の身体からは、血が溢れ出していた。