第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「戦うことしかできない私たち羅刹に、戦いの場も残されていないというのならーー、ここで終わりにしてあげるのが、せめてもの情けというものでしょう」
広間が静まり返る。
すると、一息の間を置いてから我に返った羅刹隊たちはみすみす殺されようとは思っていなかったようだ。
彼らは命令されることもなく、自ら抜刀した。
「ーー平助、相馬」
「わかってるって!」
「分かりました、副長!」
土方さんが静かに二人の名前を呼ぶと、平助君と相馬君は勢いよく刀を引き抜いて構える。
「山南さん、ちょっと格好つけすぎだぜ!何でオレらに言ってくれなかったんだよ?」
「かなり焦りました!山南総長がもしかしたら、俺たちを裏切ったのではと冷や冷やしたんですから!」
「まあ、月並みの言葉ですが……【敵を騙すにはまず味方から】と」
山南さんは裏切ってなんかいなかったんだ。
その事に嬉しくなって、私は思わず安堵の微笑みを浮かべてしまう。
そして、山南さんと平助君は凄絶な笑みを浮かべると刀を振るい、一人また一人と羅刹たちを斬り伏せていく。
また、土方さんや相馬君も羅刹たちを斬り伏せ、あれだけ大勢いた羅刹たちの数が減っていた。
「それに、新選組でこういった役目を引き受けるのは、常に私でしたからね」
その言葉を聞いていた土方さん、苦笑を浮かべてると彼も羅刹化して、相馬君もそれを見てから同じように羅刹化する。
「……何言ってやがる。昔から、後始末は俺の役目って決まってるだろうが」
四人の羅刹が、羅刹たちを斬っていく。
仙台城の広間は、鮮やかな鮮血が舞い散っていた。
その光景はさながら、絵物語でみた鬼神の戦いのようだ。
血の匂いに、吐き気を感じていく。
その吐き気を堪えながらも、私は唇を噛み締めていれば震えだしていた手を握られた。
「……千鶴」
「大丈夫だよ千尋」
慰めるように優しく呟く彼女に、私は小さく頷いた。
すると広間の隅に座り込んでいた綱道父様は、この光景を見ながら力無く呟く。
「……あの言葉は、偽りだったのか?鬼の王国で、羅刹の更なる研究を進めよう。山南君……。君は、確かにそう言ったはずだ」
山南さんはそんな綱道父様に視線を向けながらも、目の前の羅刹たちを斬り伏せていた。
「……先が、見えてしまったんですよ」
彼は瞳を少しだけ伏せて、呟いた。