第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「さあ……、手を貸しておくれ千鶴。そして千尋を説得しておくれ。我々の旗頭には、おまえと千尋が必要なのだよ。この羅刹たちを使い、雪村一族を再興させよう」
「父様……」
綱道父様は、私の話を分かってはくれなかったんだ。
その事に落胆と悲しさと怒りが混ざり合い、感情が爆発しそうになる。
唇を噛み締めながら、綱道父様を睨みつけていれば後ろにいた千鶴が、私の隣に立った。
「……父様は、間違っています」
千鶴の言葉に、綱道父様は目を見開く。
「人を犠牲にして自分たちの国を作るなんて、私は絶対に賛成できません……!」
「千鶴……」
私は千鶴の言葉に小さく微笑むと、千鶴は私へと視線を向けて同じように微笑んでから小さく頷いた。
「人間だろうと鬼だろうと、命の重みに変わらないんだもの。それに、郷里を滅ぼされたからって、私たちが人間を虐げていいわけじゃない」
「そうだね……うん、そうだね」
すると、静かに話を聞いていた山南さんが土方さんへと話を持ち出す。
「ーー新選組に手を貸してもいい、と綱道さんは仰ってくれています。どうです、土方君。この羅刹たちを率いて、共に新政府軍と戦うつもりはありませんか?」
「……俺の答えは、はなっから決まってるさ」
土方さんの言葉には遠回しだけども、拒絶が込められていた。
それに、土方さんは何時も羅刹の研究を進めようとしていた山南さんを止めていたのだ。
今更、山南さんの考えを良しとはしない。
土方さんの意思は、何ひとつ揺らいでいないと確信できた。
「……交渉決裂、ですか。では、仕方ありませんね」
山南さんはため息を吐くと、ゆっくりと腰に差していた刀を抜いた。
「山南さん……!?」
「山南さん、何を……!」
まさか、交渉決裂したから土方さんたちを襲うつもりなのだろうか。
最悪の事態が脳裏に浮かび、私は目を見開かせていたけれども、土方さんは刀を抜くそぶりを見せない。
ただ、冷めた眼差しを山南さんに向けていた。
山南さんの髪は、あっという間に白髪に変わる。
瞳は血のように赤い色に変わり、そして彼は刀を高く振り上げた。
「うぎゃああああ!」
「……え?」
彼が斬ったのは、土方さんでも平助君や相馬君でもなかった。
その場にいた羅刹隊の一人を斬り伏せていて、私と千鶴に相馬君は目を見開かせる。