第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「改良型だか何だか知らねえがな。俺たちを仕留めてえなら、あの十倍でも足りねえくらいだよ」
「く……!」
綱道父様は悔しげに顔を歪ませていた。
そんな中で、綱道父様の隣に立っていた山南さんは穏やかな笑みを浮かべている。
土方さんの姿を見てもなお、焦ることもない。
「……そろそろ来る頃だと思っていましたよ。他の隊士は連れて来なかったんですね。まあ、君ならそうするも思っていましたが。三人だけで敵地に乗り込むなど、無謀だとは思いませんでしたか?」
「……状況を説明してもらおうか。なぜ、俺たちへの連絡を絶った?」
鋭い目付きで山南さんを見る土方さんは、厳しい声で言葉を投げかける。
「仙台に、君が求めるのはありません。……奥羽越列藩同盟は、戦争の回避を目論んでいます」
「それってーー」
それは、同盟の盟主である仙台藩は戦いを放棄しようとしているという事。
頼りにしていた物が、呆気なく消えたと告げられたことに土方さんは眉を寄せていた。
「……会津での度重なる敗報を伝えられ、腰が引けてきたようですね」
「私は、新政府軍より密命を受けて仙台に来た」
「密命……?」
「ああ。羅刹隊を率いて仙台城を落とし、同盟を完全に崩壊させろとの指示だ。しかし……、それは私の本意ではない。新政府側の考えにはどうしても同意できん」
同意していなくて良かったと少し思った。
鬼は、人との戦いに関わる事は禁じられているのに、もし綱道父様が関わろうとしていたのなら、それを良しとしているのなら、彼は鬼の矜持を反しているのだから。
だけど、仙台藩にそこまでする必要はない。
何せ、仙台城に攻め込まなくても、既に仙台藩は敗報を聞いただけで、こうして動きを止めているのだから。
「新政府軍に不満を持っていた綱道さんと手を結び、私たちはこうして仙台を掌握するに至りました」
成程、と思った。
綱道父様は仙台城に攻め入らない代わりに、仙台藩から滞在を黙認されている。
そしてその間に、綱道父様は羅刹隊に力を蓄えさせていたのだ。
「……父様は、幕府軍の味方なの?」
「私はお前たちの味方だよ、千鶴、千尋。人間たちの争いに手を貸すつもりはない。我ら一族を滅ぼした人間や、我々を見捨てた旧き鬼共に復讐しよう。千尋、お前は一番、それを望んでいただろう?」