第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
見慣れない天井に顔を顰めながらも、辺りに視線を向ければ見知らぬ部屋にいた。
「……ここは、どこ?」
「千尋、目が覚めた?」
「……千鶴」
私の顔を覗き込んでいたのは、不安げに瞳を揺らしている千鶴だった。
そして、私は直ぐに意識を途切らせる前に起きた事を思い出して飛び起きる。
「おや、お二人とも起きたのですね。ここは、仙台城ですよ」
聞き慣れた声が聞こえ、私と千鶴は勢いよく声が聞こえた方へと振り向く。
そこには、穏やかな笑みを浮かべながら私たちを見ている山南さんの姿があった。
「山南さん……!」
「……それに、綱道父様」
山南さんの隣には、私の鳩尾に拳を入れて気絶させて、恐らく私と千鶴をここに連れ込んだであろう綱道父様の姿。
彼らの姿を目に入れた私は、慌てて立ち上がりながら千鶴を庇うように右腕だけを広げて彼らを睨め付ける。
「……一体、どういうことなんですか?山南さん」
「綱道さんとは、羅刹の研究を行う為、協力関係を結んだのですよ」
「それは、新政府軍に加担しているということですか?新選組の方々を、土方さんを裏切ったと捉えても良いのですか?」
「さあ、それはどうでしょうね?」
曖昧な言葉に、私は僅かに怒りを感じる。
私に事情を明かすつもりはないようだけども、綱道父様と居るということは、裏切ったと捉えてもいいのだろう。
怒りをあらわにしながら、山南さんを睨みつけていれば綱道父様が心配そうに私と千鶴へと視線を向けていた。
幼い頃に見た、優しい綱道父様の表情だ。
「千鶴、千尋、身体は大丈夫か?すまなかったね。加減はしたつもりだったんだが……」
「あ……」
千鶴の方を振り向けば、瞳が揺らいでいた。
それもそうだ……昔の綱道父様のままの優しい声色であり、優しい表情なのだから。
私も揺らぎそうになっていた。
(でも、油断できない)
腰の方へと視線を向ければ、私の刀は無くなっていた。
奪われたのか、それともあの民宿に放置されているのだろうかと考えていれば、山南さんが声をかけてくる。
「逃げようとは思わないほうがいいですよ。私たちも、手荒な真似はしたくありませんから」
「……はい」
逃げようとしても、直ぐに捕まるのは分かりきってる。
綱道父様だけならまだしも、山南さんがいるのだなら逃げ出すのはかなり難しい。