第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「そうとも。これは皆、お前たちのためなんだよ」
綱道父様の言葉に、私は眉間に皺を寄せる。
そして千鶴を庇うように、彼女の前に立ってから綱道父様に鋭い視線を送った。
確かに雪村家の再興は夢見た事もある。
あの時のように、ただ静かに山奥で暮らしていきたいとも思った。
だけど、これは間違ってる。
「綱道父様……。羅刹を使って雪村家を再興するのは、私は反対ですし認めません。羅刹を使って作り上げる栄華なんて、必要ないです」
「……千尋の言う通りです、父様。私と千尋は父様と一緒に行けません。力で作り上げる栄華なんて、欲しくない」
「……羅刹を、人であった者たちを化け物に変えてまで復興だなんて、雪村の里の同胞達も望んではいないはずです」
私と千鶴は、彼の考えに反発した。
すると、綱道父様の顔からは笑みが消え去り、背筋が冷える感覚に襲われる。
そしてゆっくりと私たちに歩み寄ってきた。
後退しようとするが、後ろには羅刹が控えている。
同胞に向かって、育ての親に対して刀を抜きたくないけれど、私は腰に差した刀の柄に手をかけた。
「……お前たちは、新選組に長く居すぎたか。人間共に毒されてしまっているようだな。特に、千尋が一番毒されている。あんなに、お前は人間を嫌っていたというのに」
「毒されたって……!」
「ですから、毒されたわけではなくて……!」
私たちは毒された訳じゃない。
それに、変わったとするのからば綱道父様の方だろう。
「くそっ!どけよ、おまえら!」
視線の先には、平助君が息を切らせながら羅刹たちを斬り伏せていた。
だけど続々と羅刹たちは増えていて、傷を付けた所はあっという間に癒えている。
「綱道父様……貴方、何を考えているんですか!?」
「もう少し、腰を据えてじっくり話せば、お前たちもわかってくれるだろう……」
「何をいっ……!?」
「千尋!?父様、何を!?」
「千尋!おい、千尋!!」
次の瞬間、鈍く鋭い痛みが鳩尾にめり込んでいた。
そしてゆっくりと意識が沈んでいき、完全に意識が途切れる前に千鶴と平助君が私の名前を呼んだ声が聞こえ、そこで私の意識は完全に途切れたのだった。
「……あれ?」
意識がゆっくりと浮上して、目を開ければ見慣れない天井が視界に広がっていた。