第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
千鶴と共に、洗濯物や繕いものをしながら土方さん達の帰りを待っていた時だった。
ふすまが開き、土方さんか相馬君たちが戻ってきたのだろうかと視線をそちらへと向ければ、そこには音沙汰か無かった平助君がいたのだ。
「平助君!?」
「平助君!」
「い、今までどうしてたの?連絡も無いし、ずっと皆心配してたんだよ!?」
慌てて立ち上がり、彼の元に駆け寄りながらそう言うが、彼は私の問には答えない。
それどころか、少し焦った表情を浮かべていた。
「千尋、千鶴。土方さんがどこにいるか知らねえか?」
「……土方さんなら、相馬君たちと城下に出てらっしやるけど」
「そっか……。じゃあ、伝言頼めるか?オレたちが仙台に着いてからのこと……全部話すから、土方さんに伝えてくれ」
「わ、分かった」
戸惑いながらも、私は平助君の言葉に頷く。
すると平助君は困ったように小さく息を洩らしながら、疲れたように目を伏せた。
「……仙台藩が、オレたちに協力してくれなくてさ。もしかしたら新政府軍の方から圧力をかけられてるんじゃねえかって、山南さんが言ってて。仙台藩の内情を探ってるうちに……、綱道さんかここに来てることを突き止めたんだ」
「父が……!?」
「……綱道父様が?」
風間が、確かまだ京にいた頃に【こちら側にいる】と話していたのを思い出す。
だから土方さん達は、もしかしたら綱道父様は尊皇攘夷派……今の新政府軍に拘束されているかもしれないと言っていた。
そんな彼が仙台にいる。
私と千鶴は困惑したようにしていれば、平助君も困惑した表情を浮かべながら言葉を続けた。
「……しかも綱道さんは、新政府軍の羅刹隊を率いてるみたいでさ。放っておくわけにはいかねえから、敵方の動きを監視してたんだけど」
「けど……?」
「……見ちまったんだ、オレ。山南さんが綱道さんと密会してるところ」
「えっーー!?」
「密会って……」
平助君によれば、山南さんは大勢で動くと目立つからと言って平助君とは別行動を取っていたらしい。
そしてある日、情報収集という名目で隊を離れた山南さんが、綱道父様と密会している姿を目撃したとのこと。
「オレ……、もうわからねえよ。山南さんが何を考えてるのか」
「でも……山南さんが新政府軍側と内通してるって決まったわけじゃないでしょう?」
「確かに……そうだよね」