第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「ま、辻斬りの件は君に頼んだ。それじゃあな」
榎本さんは軽く会釈してから、足早にその場を立ち去って行った。
そんな彼の後ろ姿を見送っていれば、土方さんは小さく息を洩らす。
「ありゃ、おまえを一目見て直ぐに女って気付いたようだな。たく、揶揄うだけ揶揄いやがって」
彼の言葉に苦笑を浮かべながらも、私は未だに見える榎本さんの背中を見つめた。
さばさばしているのに人情家である彼は、きっと多くの部下の人々に慕われているに違いない。
少し、近藤さんと似ているかもしれない。
それに土方さんとも気が合いそうで、少しだけ安心した。
だけど、胸騒ぎだけは収まることはない。
「土方さん。榎本さんや町の人が噂している辻斬りは……山南さんの仕業と思います?」
「今の段階じゃ、何とも言えねえな。だが、確実に言えるのはーー。もしあの人が辻斬りの首謀者なら、山南さんを斬るしかねえってことだけだ」
「……斬るんですね」
「ああ。……羅刹の寿命について知った時、山南さんはかなり動揺してたからな。……自暴自棄になっても、不思議じゃねえ」
「そう、ですね……」
山南さんが辻斬りをしているとは信じたくない。
だけども、彼が辻斬りをしている公算は高く、絶対にしていないとは言えない。
だけど、どうしても山南さんの仕業じゃないと信じたかった。
ふと、土方さんへと視線を向ける。
決意しているようなその表情は、山南さんを斬ることを覚悟しているようなものだった。
だけど、本当は山南さんを斬りたくはないはずだ。
「今の仙台は、微妙な状況に置かれてる。俺たちも、うかつな行動なできねえ。おまえも、気を抜くんじゃねえぞ。姉にも言っておけ……いいな」
「はい……」
小さく頷きながら、私は仙台城を見上げる。
おかしな部隊、そして仙台城に入る所を見たと言われている辻斬り。
この仙台は何が起きているのだろう……。
そして、仙台に辿り着いた翌朝から、土方さんは町の様子を調べ回っていた。
羅刹の身で昼間を動き回るのは心配だけど、止められる雰囲気じゃない。
私と千鶴は、土方さんが隊士さん方と城下を見回っている間、用意された宿所で待機を続けていた。
「……なんだか、不安ばかりだね。辻斬りの件や、山南さんたちの事で」
「そうだね。平助君も音沙汰が無いし……何も無ければ、いいけれど」