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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第12章 欠けていくもの【土方歳三編】


「まず、仙台城の様子がおかしい。奴さんたちの考えが、さっぱり読めねえ。正式に会談を申し込んでも、是非の返答すらよこさねえ。さらに……仙台藩にゃおかしな部隊がある、っつう話まで広まり始めてるところだ」
「……おかしな部隊、ですか?」
「ああ、仙台では辻斬りが横行しててな。その犯人たちが城に戻るところを見た……、なんてうわさがまことしやかにささやかれてる」

榎本さんの言葉に胸騒ぎがする。
仙台城に存在する、おかしな部隊と呼ばれる存在。
そして先行していたが、連絡が取れなくなった山南さんたち羅刹隊。

まさか……とは思いながらも、つい重ね合わせてしまう。
だけど私の考えは土方さんもしていたようで、厳しい表情を浮かべていた。

「何にせよ、このままじゃ動きようがねえ。せめて辻斬りの犯人をとっ捕まえて、治安維持に努めたいところだが……」
「……榎本さん。その辻斬りの件、俺に預けてもらえねえか」

土方さんの言葉に、榎本さんは僅かに思案してから静かに頷いた。

「……よし、この件は君に任せよう。詳しい事情は聞かねえことにしとくよ」

小さく笑った榎本さんに、土方さんは小さく頷いた。
事情を聞かないでもらえるのはとても有難い……そう思っていれば、榎本さんは私へと視線を向ける。

「にしても、土方君。君も隅に置けねえな」
「……どういうことだ?」
「こんな可愛らしい子を傍に置いているなんてなあ。大鳥君から聞いたが、どうもこの子から尻に敷かれているらしいじゃねえか」

彼の言葉に、私は思わずぎょっとした。
そして慌てて土方さんを見れば、彼は苦虫を潰したような表情を浮かべている。

「聞いた所じゃ、宇都宮で君が大怪我をした時にこの子にとてつもなく叱られたらしいじゃねえか。喋り方からして、江戸の生まれか?江戸の女子は強いからなあ」
「……確かにそうですね。口煩いったらありゃしねえ」
「だか、叱ってくれる存在が居ることは良い事だ。それに、こんな可愛い子なら尚更良い」

榎本さんの言葉に、私は恥ずかしくなって頬が熱くなっていくのを感じた。
あまり【可愛い】という言葉に慣れてないのもあるが、大鳥さんから土方さんを叱っていた話を広められているという事も知って恥ずかしい。

恥ずかしさで顔を俯かせてから、ちらりと横にいる土方さんを見れば小さく笑っていた。
苦笑とは違う、柔らかい笑顔だ。
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