第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
そんな彼に、私は小さく頷いてから微笑んだ。
「お任せください、土方さんの事をちゃんと見ています。怒られたって、拒絶されたって傍を離れるつもりはありませんから」
それに、土方さんの傍に居ることは私の望みでもある。
彼の傍にいて、彼の役に立ちたいと彼の為に何かしたいとずっと思っているから。
「頼まれることは何ひとつねえよ。……あんまり、こいつを調子に乗らせるな」
私の言葉を聞いていた土方さんは苦笑を浮かべて、ため息混じりに斎藤さんをたしなめた。
だけど斎藤さんは何も言わず、ただ穏やかな眼差しで私と土方さんを眺めている。
そして、新選組と私たちは仙台を目指すことになる。
土方さんは、激戦に赴く斎藤さんの身を案じて会津に島田さんを残すことに決めた。
斎藤さんが窮地に追い込まれても、島田さんがいれば何とかなると思ってのことだった。
「……会津から離れるのは、少し寂しいなあ」
白河城を出る際に、私はぽつりと言葉を零した。
すると傍にいた千鶴は不思議そうに私の顔を見ている。
「千尋、会津が好きなの……?」
「……好きというか、そうだね。千鶴にな話していなかったものね。会津の近くの更に奥に、雪村の里があるの」
会津から少し離れた場所に、私たちが生まれ育った雪村の里がある。
時間に余裕があれば、少しだけ雪村の里に行こうかと思っていた。
「……雪村の里が?」
「うん」
「雪村の里って、前に千尋先輩が話してた、先輩たちの故郷だよな?この近くにあるのか?」
「うん。……綺麗な川が流れていて、夏は蛍が見えて、自然に囲まれた場所にあるの。人の目を避けるために、かなり山奥にあるんだけどね」
あそこには、私の父様と母様や千鶴のご両親に亡くなった里の者たちが眠っていた。
人間に襲われたあと、綱道父様と共に向かって絶望したのを覚えている。
(焼かれて焦げて崩れ落ちた家、積み重なる同胞たちの遺体……)
見るのは辛かったけど、時間をかけて全員を埋めてお墓を作った。
だから、お墓参りに行きたいとは思っていたけれど、今はその余裕はない。
「……千尋、いつか戦が終わったら行きたい。雪村の里に」
「……うん、行こう。私たちの故郷に」
この戦が終わり、平和な世になった時に戻ってこよう。
私は千鶴とそう約束を交わし、会津を離れた。