第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……オレも、山南さんと一緒に行く。あの人から目を離すのは不安だしな」
「ああ。……そうしてくれると助かる」
「……気をつけてね、平助君」
「あとで、会おうね」
「おう!大丈夫、任せとけって。」
平助君は何時もの明るい声で応えるてから、山南さんを追いかけるように部屋を出た。
「島田。……伝令の準備をしておいてくれ。大鳥さんと会津藩に新選組の決定を伝える」
「わかりました。早急に用意を調えます」
土方さんの命令を聞いた島田さんは頭を下げ、伝令を果たす準備をするために部屋を出た。
そして、斎藤さんはこの場から人が減るのを待っていたのか、彼は土方さんに向き直る。
「土方さんは、何としてでも生き残ってください」
「どうした?やぶからぼうに」
「……新選組は、近藤さんや土方さんが信じて築き上げてきた武士の道そのものです」
京にいた頃、町の人々からはそしられていたりとしていたが都を守り続けていた新選組。
あの時から、新選組は変わらぬ志を抱き続けていた。
敗北をどれだけ味わい、積み重ねようと、幕府が新政府軍に恭順してもなお、決して折れない思いがある。
「新選組が掲げる【誠】の旗は、今や侍たちの拠り所になっています。新選組は武士を導くもの……、義の道標です」
いつの間にか、新選組は武士の道標となっていた。
武士たちの拠り所になり、そして道標となった今では最後まで戦い続けなければならない。
斎藤さんの真っ直ぐなその言葉を、土方さんは静かに聞いていた。
その表情はどんな感情を持っているのかは、わからない。
「俺は、新選組を作り上げた土方さんにこそ、道標を担い続ける義務があると考えています」
「簡単に言ってくれるじゃねえか」
土方さんは、何時ものように薄い笑みを浮かべる。
そして穏やかな声色で、言葉を続けた。
「……おまえに約束してやるよ。俺は、新選組の行く末を見届ける」
彼の言葉に、斎藤さんは深々と頭を下げた。
「……ありがとうございます」
斎藤さんの口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。
そして彼は、顔を上げると私に視線を向けてくる。
「……雪村妹、土方さんを、頼む」
短い言葉だけども、その言葉には斎藤さんの万感の思いが込められているのに気が付く。
斎藤さんは私の返事を待つように、静かに私を真っ直ぐに見ていた。