第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
土方さんの言葉に、その場にいた私たちは【なるほど】と納得したような表情になった。
「大鳥さんも、ずいぶん派手なことを思いついたもんだな」
ふと、大鳥さんの作戦は土方さんが好むようなものだなと感じた。
それを証拠に、珍しく土方さんの瞳が生き生きしているのだから。
「旧幕府海軍も既に江戸を脱走き、海路にて北上しているとのことです」
「では、私が先行して仙台に向かいましょう。本隊が到着するまでに、地盤を固めておきますよ」
「……山南さんがですか?」
確かに誰かが先行して、現地の情勢を探るのはとても大切で必要なこと。
それに新選組が拠点とできる場所を事前に確保することも必要だ。
だけど、山南さんは【羅刹】だ。
死んだことになっている彼が、先行して行っても大丈夫なのだろうか。
そう思っていれば、千鶴も同じ事を思ったようで彼に声をかける。
「ですけど、羅刹隊から使者を出すのは危険なのでは……」
「仙台は私の故郷ですから、伝手があります。内情を探るにしても私が適任でしょう。……少々、気になることもありますしね」
「気になること……?」
「気になること、というのは……?」
千鶴が恐る恐ると問いかけてみるが、山南さんは返答はせずに柔らかい微笑みを浮かべながら頷くだけ。
そんな彼に、少しだけ胸騒ぎを覚えた。
「けど山南さん、死んだことになってるだろ?今更出て行っても、混乱を招くんじゃねえか?」
「それくらい、どうとでも誤魔化せますよ」
「そう言われますと、やはり山南さんが適任かもしれませんな」
「羅刹は、先行部隊にゃ向かねえよ。……昼間に移動できねえんだからな」
「昼に活動するのは手間ですが、できないわけではありません。今は、正念場ですからね。多少の無理なら、喜んでさせて頂きますよ」
笑みを浮かべる山南さんに、土方さんは静かに視線を向ける。
何かを探っているような、山南さんの様子を伺っているような目。
そして、彼に不安を覚えているのは私や千鶴だけじゃないらしい。
平助君も相馬君や野村君も、不安げな表情を浮かべていた。
「その……。伝令には、まだ続きがありまして」
土方さんと山南さんが静かに視線を戦わせている時、空気を変えるかのように島田さんが言葉を発した。
「大鳥さんは伝習隊を率いて母成峠に向かい、新政府軍の進軍を食い止めるつもりのようです」