第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……俺が、新選組の副長だからか」
「近藤局長亡き今、新選組を統べる人だからです」
揺るぐことない斎藤さんの真っ直ぐな瞳、そして彼の言葉に土方さんは再度、小さく息を洩らす。
「前線での戦いは俺たちに任せてください。土方さんは、城に留まって作戦の指揮を」
「……わかった。会津の前線指揮は、おまえに任せるよ。少なくとも俺の傷が癒えるまでは、な」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べた斎藤さんは、やがて私へと視線を向けてきた。
静かに私をじっと見てくる彼に、私は小さく首を傾げながらも彼に声をかける。
「斎藤さん……?あの、何か?」
「土方さんを頼む。傷が癒えるまで目を離さないでくれ」
「……はい!お任せください」
小さく微笑みながら返事をする私に、斎藤さんは満足気に微笑んでくれた。
そして彼は改めて土方さんへと黙礼をすると、この部屋を後にしたのだった。
斎藤さんが出ていき、部屋の中は沈黙が流れる。
やがて、土方さんの方へと視線を向ければ、彼は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「……やれやれ。目付役を付けなきゃならねえほど、俺を信用できねえってことか」
「それだけ、斎藤さんは貴方の事を心配されているんですよ。土方さんは、直ぐに無理をされるから」
斎藤さんに任された事を、遂行しよう。
そう心に決めながら、私は言葉を続けた。
「気がはやるのもわかります。ですが、しばらくは休んでいてくださいね。怪我も完治していないんですから」
念を押すように言えば、土方さんは苦笑を浮かべる。
呆れたような、なんとも言えない苦笑だなと思っていれば、突然彼の表情は苦痛に歪む。
「ぐっ……!?」
「っ、土方さん!?」
胸を抑えながら、苦しげなうめき声をあげる彼に思わず駆け寄る。
すると彼の髪は白髪へと変わり、瞳は赤へと染まっていき、羅刹の姿へと変わっていた。
変若水という毒は、羅刹という血はまたもや彼を苦しめていく。
そのことに眉を下げながらも、私は辺りに人の気配が無いかを確認する。
(ここじゃ、人が来るかもしれない……)
羅刹化した姿を、事情を知らない隊士の方々に見せる訳にはいかない。
私は土方さんを支えながら声をかけた。
「土方さん、部屋を移動しましょう。こっちの部屋に」
彼を支えながら、私は隣の部屋へと土方さんを連れ込んだ。