• テキストサイズ

君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第12章 欠けていくもの【土方歳三編】


「そのお言葉には、一理あると思います。ですが、俺の代わりを務めると仰るのであればーー」

息苦しく重苦しい沈黙の中、斎藤さんは不意に右腰に差してある刀に手をかけたのだ。

「俺を倒してから、向かってください。俺より劣る腕前であれば、前線へと向かっても犬死にするだけですから」
「斎藤さん!?」
「……言うようになったじゃねえか」

挑発的な笑みを浮かべた土方さんも、腰に差していた刀をなんも躊躇いなく引き抜いた。
まさかの事態に、私は目を見開かせながら二人の顔を交互に見る。

「何、してるんですか……!?仲間同士で!」
「おまえは口を挟むな。……黙って見てろ」

土方さんは冷たい目で私を黙らしてくる。
そんな彼に、私は口を噤むってから眉間に皺を寄せた。
そして、彼らは鋭い目つきでお互いを睨みつけて対峙し続ける。

やがて、二人は同時に地を蹴り上げた。
刀と刀がぶつかりあう音が響き渡り、押し負け、弾き飛ばされたのは……。

「何だと……!?」

土方さんが、弾き飛ばされていた。
怪我が完治していないとは言え、彼は羅刹の身である為他の人に負けぬ力を持っているのにだ。

だけど、驚くのはそれだけじゃなかった。
斎藤さんの髪の毛は白髪になっていて、瞳は血のように赤く染っていたのだ。

「傷も癒えきらぬ状況で生き残れるほど、会津は、甘い場所ではありません」
「そんな……斎藤さん、その姿……」

斎藤さんの今の姿は、羅刹だった。

「斎藤さん、貴方……変若水を飲んだんですか……?」
「……気づかいは不要。これは、俺自身が選択した結果だ」

彼の言葉に、私は何も言えずに口を閉ざした。
斎藤さんが羅刹となったという事は、会津での戦いがどれだけ激しいかを物語っている。

「自ら激戦地で指揮をとりたいというお心は、理解できているつもりです。だからこそ、行かせるわけにはいかない」

斎藤さんは静かに刀を納めると、同時に彼の髪色と瞳の色は元の色へと戻っていた。
そして彼ら穏やかな声色で、土方さんを真っ直ぐに見つめながら言葉を続ける。

「……戦いの最中に身を置いていれば、苦しみを忘れられるかもしれない。しかし、忘れてもらっては困ります。現実から目を背けるべき時ではありません」

土方さんもやがて、静かに刀を納めながら小さく息を吐いた。
/ 768ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp