第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
そして、夜もふけた頃。
平助君と山南さんが、土方さんを訪ねてきた。
二人は私たちが到着した昼間には、身体を休めていたとのこと。
「今日は、いつもより早く目が覚めましたよ。君が帰隊したおかげで、城内が騒がしかったもので」
「かなりの大怪我だったんだろ?こんなに早く合流できるなんて思わなかったぜ」
「こう戦続きじゃ、いつまでも休んでられねえだろうが」
穏やかに対応している土方さんだけども、内心までが穏やかでいるとは思えなかった。
近藤さんの死、原田さんの死を伝えられたのだから。
土方さんの苦しみは私以上のものであり、想像できるものじゃない。
だけど彼は、ただ静かに穏やかに……まるでいつも通りに過ごしていた。
「では、そろそろお暇しましょうか。我々の仕事は夜半から始まりますので」
山南さんが立ち上がり、平助君も無言で頷いてから彼に続けて立ち上がり席を立とうとした時だった。
「ーーああ、平助。悪いが、斎藤を呼んできてくれるか?」
「一君?……わかった、呼んでくる。けど土方さん、ここに着いたばっかりなんだし、今夜ぐらいはゆっくり休んでくれよな」
土方さんを気遣い、部屋を出ていく平助君に土方さんは微かに微笑んで応えるだけだった。
二人が出ていき、その場には私と土方さんだけとなって微妙な沈黙に包まれる。
出ていけと言われるわけじゃない。
だけど、お互い何かを話すことも無く、ただ沈黙が流れる状態に、私は思わず声をかけた。
「あの、土方さん……」
その時、ふすまが静かに開いて斎藤さんが現れて、私は慌てて口を閉じた。
「俺に御用だとうかがいましたが。……何か?」
「斎藤。今後の戦いは、俺が前線で指揮を執る」
「え……!?」
突然の土方さんの言葉に、私は思わず声をあげた。
敵味方が入り交じる会津の最前線は、今までよりも激しい戦になるはず。
しかも土方さんはまだ怪我が完治もしていないのに。
「討ち死になさるおつもりですか」
「……みすみす殺されてやるつもりはねえよ。今までは、おまえが前線に出てたんだろ?副長の俺が、その役目を肩代わりするのは当然だろうが」
土方さんが最前線に出れば、味方の士気は上がるかもしれない。
だけどそれは本当に危険であり、もし土方さんが戦死することがあれば、支えが居なくなった新選組は崩落してしまう。