第3章 巡察【共通物語】
そんな声があちこちから聞こえてきた。
どうやら、武田さんが起こしているような事は度々あるらしい。
だから新選組の評判は悪いのかもしれない。
「……人が集まってきているようですよ。本当に抜くつもりですか?」
「くっ……!」
お武家さんが、そう武田さんに尋ねると武田さんは悔しそうに顔を歪めた。
そして忌々しそうに歯噛みをすると、お武家さんの手を乱暴に振り払う。
「貴様の顔……忘れはせんぞ。覚えておけ」
そう言い残すと、武田さんは踵を返して店の前から姿を消してしまった。
私は武田さんの後ろ姿を見送り、騒ぎが大きくならなずに済んだ事に、ほっと胸を撫で下ろした。
「よかった……大きな騒ぎにならなくて」
「とんだ災難でしたね。さあ、中に戻りましょうか」
「え、あ、あの。大丈夫でしたか……?」
「はい、あのくらい平気です」
「そう、ですか……なら良かったですが……。でも、どうしてあんな無茶なことを?それに、私を庇って下さったみたいですが」
私がそう質問すれば、お武家さんはこう答えた。
「……あなたが、知っていた顔によく似ていたからです」
「え……?」
「はい。うん……やっぱり似ています」
そう言ってお武家さんは私の顔をじっと見つめてくる。
そんな彼の顔を見て、ふと何故か懐かしい気分になり首を傾げた。
どこかで見たような、見覚えのあるような顔。
でもとこで見たのか思い出せなくて悩んでみるが、思い出せない。
もしかしたら、見覚えがあるというのは気の所為かもしれない。
「あの、もしかしたら人違い……では?すみません……」
私がそう言うと、お武家さんは困ったような傷付いたような表情をした。
「いいえ、いいですよ。ただの勘違いだったみたいですね。とりあえず、中に入りましょう。せっかくのお茶やお菓子が台無しになってしまったし」
「え、あ、あの……」
お武家さんは直ぐに傷付いたような表情を消すと、笑顔を浮かべて私の肩を押し、お店の中へと引き戻した。
そしてお店の中に戻ると、お店の店主が淹れたてのお茶を私たちの前へと置いてくれる。
「もしかして、わざわざ淹れ直してくれたんですか?しかも羊羹まで」
お茶の横には可愛らしい羊羹が添えられていて、お武家さんは少し驚いたような表情をしたが、店主の人は嬉しそうな笑みを浮かべていた。