第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
腹を切らせてくれ……そう懇願する彼らに土方さんは厳しい言葉を放った。
「死ぬ覚悟が出来てるんなら、薄っぺらい言葉なんぞじゃなくて戦場で示しやがれ!」
「「はい……」」
二人は涙で震えた声で、そう返事をしたのだった。
彼らは私が想像するよりも遥かに、とても辛いはずだ。
そんな彼らに言葉をかけることも出来ずにいれば、相馬君が土方さんに言葉をかける。
「土方さん……こちらの刀を、お納めください。局長からお預かりした物です」
「近藤さんから?」
相馬君は刀を取り出し、土方さんの前に差し出した。
「はい。ーー【井上真改】。新選組の再起を願って入手した物だそうです」
土方さんは差し出された刀を見下ろす。
その表情は凄く複雑そうで、瞳には寂しさの色が宿っていて揺れている。
だが彼は、その刀を手に取る事はなかった。
「……そいつは、おまえがもうしばらく預かっててくれ」
「えっ?ですが……」
「新選組は、俺と近藤さんの二人で大きくしてきたものだからな。【真】を【改】めるなんて言われても……、すぐには心の整理が付けられそうにねえんだ」
「……わかりました」
相馬君は静かにその刀を後ろへと下げた。
すると、野村君が声を震わせながら声をかける。
「それから……、もう一つ、言わなきゃならないことがあるんです。俺たち、江戸で原田さんに会ったんですけど……」
「原田に?」
「原田さんに、会ったの?」
新選組を脱退されてから、彼の行方は分からなかった。
何処かで新選組と同じように、新政府軍と戦っているのだろうと思っていた彼の名前が出て、私と土方さんは驚いた表情を浮かべる。
だけど、直ぐに千鶴と相馬君に野村君の顔色を見て、嫌な感じがした。
三人とも泣き出しそうな、そんな表情をしていたから。
「はい。彰義隊の手助けをしていたと伺ったのですが、その後、我々を江戸から逃がす為、囮となって……」
その後の事は想像したくなかった。
私は俯きながら、絶望で身体を震わせていれば千鶴が私の右手を優しく手で包み込んで握ってくれる。
その手は僅かに震えていた。
「……そうか、原田も……」
次々と大切な仲間が居なくなる。
井上さん、山崎さん、近藤さん、原田さん……居なくなって欲しくなかった人たちはもう、この世にいない。
その現状は深く深く私たちを傷付けていった。