第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「うん、ごめんね……千尋。ごめんね」
「……良かった、良かったよ……無事で」
千鶴から少しだけ身体を離してから、私は彼女の顔を見ながら心の底から安堵した。
長岡邸から脱出して、千鶴と離れ離れになってから何度も何度も彼女のことばかり思っていた。
無事なのだろうか、怖い目にあっていないのかなと何度も。
「無事で、本当に良かった……。野村君も、相馬君も……」
「ああ、本当だ。相馬、野村、雪村。おまえらも無事でよかった。心配したんだぜ」
土方さんが三人をねぎらうけれども、相馬君も野村君も千鶴も顔を曇らせた。
どうしたのだろうと思いながら、三人の様子を見ていれば、やがて野村君が肩を小刻みに震わせだす。
そして彼は、土方さんへと勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません、副長!」
彼は頭を下げるだけではなく、床に手をついてから涙声で詫びた。
「俺は……俺は、局長の御身を任されていながらーー力及ばず、お守りすることができませんでした!」
彼の言葉に、私は目を見開かせた。
野村君の言葉の意味がすぐに飲み込めず、どういうことのだろうと困惑する。
(近藤さんを、お守りできなかった……?)
どくん……と心臓が嫌な音を鳴らす。
野村君の言葉、そして千鶴と相馬君の顔色を見て、嫌な予感がした。
やがて、斎藤さんが野村君の後を引き継ぐように告げる。
「……近藤局長は四月の末頃、板橋の刑場にて斬首に処されたとのことです」
「……斬首?近藤さんが……?」
あんなにも優しかった近藤さんが、自ら割腹して責任を取ることも許されず、罪人にされる刑罰である斬首を処された。
武士としての誇りを傷つける、屈辱的とも言える斬首刑に……。
信じたくなかった。
近藤さんが亡くなった事も信じたくなかった。
あんなに優しくて、いつも皆に慕われていた彼が死んでしまったなんて。
「そうか。近藤さんは……腹も切らせてもらえなかったか」
淡々とした声色で呟く土方さんの瞳には、深い絶望が宿っていた。
「……局長をお守りできなかったのは、俺の落ち度です。お願いします、副長。俺の首を、はねてください!」
「俺もです!助命嘆願を買って出ながら、局長をお助けすることができなかったんですから!」
「馬鹿なことを言ってんじゃねえ!これ以上、隊士を減らすような真似ができるはずがねえだろ!」