第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
自分だって、近藤さんのことで辛いのに私が泣けば慰めるようにこうして涙を拭ってくれる。
不器用で優しい彼の指や言葉に、涙は余計に溢れてしまっていた。
「雪村姉たちが、戻ってこれるように助命嘆願をまた出すつもりだ。だから、不安だろうけど待ってろ」
「……はい。ありがとうございます、土方さん」
「礼は必要ねえよ……」
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ー慶応四年・五月ー
春が終わりを告げ、暑い季節の夏が訪れた季節。
新政府軍と旧幕府軍の戦いは、既に会津へと舞台を移していた。
会津での戦は苛烈を極めているらしい。
そんな噂を最近、あちこちで耳にするようになった。
そして土方さんは、まだ完全に怪我が治ったわけじゃないのに行軍に耐える体力は取り戻せたと言い、日光を発つことを決めた。
道中は何事も無く進み、そして、旧幕府軍の重要な拠点のひとつ、白河城まで無事に辿り着いた。
先行していた新選組の本隊とも、そこでようやく合流したのだった。
ついに白河城に辿り着いた私たちを出迎えてくたれのは、久しぶりに顔を見た斎藤さんだった。
「再び生きてお目にかかれたこと、大変うれしく思います。土方さん」
「……おまえも、無事で何よりだ。ずいぶん頑張ってくれたそうじゃねえか」
ふと、斎藤さんの顔色があまり良くない事に気が付いた。
激しい戦を続けているせいで疲労が溜まっているのだろうかと思いながら、心配している時だ。
「副長、実は会わせたい者たちがいます」
「……会わせたい者?」
「はい。雪村、あんたにも」
「私にも、ですか……?」
誰なのだろうと首を小さく傾げていれば、斎藤さんは『呼んできます』と言って部屋を後にした。
私と土方さんに会わせたい人……誰なのだろうと思いながら、斎藤さんが戻ってくるのを待つ。
そして、ふすまが開いた時、私は目を見開かせた。
「……相馬、野村……それに雪村姉じゃねえか!」
そこにいたのは、行方が途中で分からなかった相馬君、そして近藤さんと共に新政府軍に捕らえられていた、野村君……そして千鶴の姿があった。
「千鶴!!」
私は走り出し、千鶴の身体を強く抱き締めた。
「千尋、ごめんね……心配かけちゃったよね」
「当たり前でしょう……!良かった、良かった……」
ぼろぼろと双眸から涙が零れ落としながら、私は千鶴を強く抱き締めた。