第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……千鶴」
何時も一緒にいた千鶴が、今は居ないこと。
私と違って命の危険に隣り合わせとなっているあの子は今、どうしているのだろう。
一人になると不安が増していく。
あの子は大丈夫なのか、千鶴は怖い思いをしているんじゃないかとばかり。
敷いた布団の上に膝を抱えるように座り、足の間に顔を埋めた。
「無事でいて……千鶴」
早く、千鶴と会いたい。
千鶴が無事なのかどうかを確かめたいと思いながら、ふと嫌な事を想像してしまった。
(もし、千鶴の身に何かあれば……千鶴がもし、父様達のように私の前から居なくなったら)
想像した瞬間、なんとも言えない恐怖に襲われる。
身体はがくがくと震えだし、瞳からは涙が溢れ出していた。
「千鶴……」
震える声で、千鶴の名前を小さく呟いた時だった。
「雪村、まだ……起きてるか」
「……え、土方さん!?」
ふすまの向こうから声をかけられて、驚いてから慌ててふすまを開ければ、そこには土方さんが立っていた。
「何されているんですか!?傷に触りますから、あまり動かないようにと言ってーー」
彼の行動を咎めようとした時、私の目元に彼の指が触れた。
目元を撫でるかのように指の腹を動かす彼に、少し驚いて身体をぴくりと跳ねさせる。
「泣いてたのか、また」
「……え?」
「気付いてねえと思ってたのか?毎晩、一人になると泣いてることに」
「き、気付いてたんですか……?」
「夜になると、押し殺すような泣き声が聞こえてくるからな。この民宿の壁は案外薄いからな」
まさか、泣いているのを聞かれていたとは思わず、恥ずかしさで顔が赤くなっていく。
「……姉のことか?」
「はい……。もう、いい歳なのに泣いてばかりだなんて恥ずかしいですよね」
「歳は関係ねえだろ。身内が、危険と隣り合わせになっているのに心配して辛い気持ちになるのは当たり前だ。……それに、雪村姉はお前の大切な家族だろ」
その言葉に、止まっていた涙がまた溢れ出す。
最近私は泣いてばかりな気がすると思いながらも、涙は止まってはくれない。
「気が強いと思えば、泣き虫だな……お前は」
涙が溢れると、土方さんは目元を親指の腹で撫でて涙を拭ってくれる。
まるで慰めるような優しい手つきであり、彼の指から伝わる温度に不安が紛らわされていく。
(この人は、不器用だけど優しい……)