第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……ああ、わかつてるよ、大鳥さん。迷惑をかけちまって、すまなかったな」
「……え?」
土方さんは、素直に謝罪の言葉を述べると大鳥さんへと頭を下げる。
その事に大鳥さんはとても驚いて、目を見開かせながら固まってしまった。
大鳥さんは何時ものように皮肉の言葉を投げられる。
そう思っていたようで、土方さんがこうして素直に謝るなんて想像していなかったようだ。
「島田も、すまなかったな。俺をここまで運んできてくれたのは、おまえなんだろ?」
「い、いえ……!副長の為でしたら、あれくらい……」
付き合いの長い島田さんも、素直に感謝している土方さんに驚いているのか目を白黒させていた。
土方さんは意識を取り戻してから、別人のように変わっている。
私が叱っても皮肉の言葉を投げてこないし、逆に感謝されたり謝罪されたりするのだ。
(最初は驚いてばかりで、思わず熱があるのか確認しちゃったんだよね……)
だけど、土方さんの中で何かが変わっているのは確かであり、それがどうしてなのかは分からない。
そんな彼に驚いている島田さんと大鳥さんに、私は苦笑を浮かべるのだった。
その日の夜。
大鳥さんと島田さんは、長居して土方さんの傷に触ったらいけないからと早めに民宿を後にした。
「まさか、大鳥さんに山崎と同じことを言われるとは思ってはいなかったな……」
「そうですね……」
「……お前といい、大鳥さんといい……俺は叱られてばかりだな」
土方さんは苦笑を浮かべながら、小さく息を洩らす。
その表情は何処か寂しげであるのは、山崎さんを思い出しているからなのだろうか。
「……今日は、もう早めにお休みください。こっそり仕事なんてしたら駄目ですからね」
「わかった、わかった。少しぐらい信用しろ」
「信用してたら、言いません」
不貞腐れたように言いながらも、私はふすまを開けてから廊下に出る。
そしてふすまを閉める前に土方さんへと視線を向けた。
「では、おやすみなさい。土方さん」
「ああ」
彼に挨拶してから、私も自身に与えられた部屋へと向かった。
彼が意識を取り戻してから、前のように徹夜しなくても大丈夫になったので最近はゆっくりと眠れている。
だけど、一人になるとどうしても思い浮かぶことがあった。