第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……おまえのことだから、【いらねえ】って言っても聞かねえんだろうな」
「よくお分かりじゃないですか。その書類を書き終わったら、すぐに横になってくださいね。次、私の目を盗んでお仕事をされようとしても駄目ですからね。書類を奪ってでも休ませますし、見張りますから」
私の言葉に土方さんは苦笑を浮かべる。
そして、私を暫く見つめていたが、やがて彼は小さく言葉を吐いた。
「ああ。……世話をかけたな」
「……え?」
突然の優しい言葉に、私は少しだけ驚いた。
聞き間違いなのだろうかと思いながら、土方さんをまじまじと見つめてしまう。
「……おまえと、そして島田にも礼を言っておかねえとな。……感謝する。ありがとうな」
何時もなら、嫌味というよりも棘が含まれた言葉が返ってくる。
そして何時も通り、私はその棘が含まれた言葉を跳ね返したり言い返したりするのだが、今日は違っていた。
というよりも、意識が戻ってから土方さんは変わっていた。
なんというか、前よりも優しい言葉をかけてくださるようになっている。
「どうした?何か、おかしなこと言ったか?」
「え、あっ、いえ……。そうじゃ、ないんですけど……」
優しいのは言葉だけじゃない。
表情もいつもより柔らかくて優しくて、少しばかり戸惑ってしまった。
そして、その日の晩。
土方さんの部屋に島田さんと大鳥さんがやってきたのだった。
「副長が意識を取り戻したって本当ですか!?」
「土方君の怪我の調子が良くなったと聞いて、寄らせてともらったよ」
「大鳥さん、島田さん、こんばんは。そしてお疲れ様です。土方さんでしたら、あちらに」
言い終える前に島田さんは土方さんの元へと駆け寄る。
「よ、よかった!あの時は、本当にどうなることかと……!」
島田さんの瞳は潤んでいて、今にも泣きそうな顔をしながら何度も頷く仕草を見せる。
「……大袈裟だな。あれっぽっちで死にゃしねえよ」
「そ、そうですよね!副長は何があっても、絶対に、死んだりしませんよね!」
本当は死にかけたのに……そう思いながらため息を吐きながらも、溢れそうになる涙り拳で拭う島田さんに苦笑を浮かべていれば、大鳥さんが言葉を放つ。
「……土方君。今日は、言いたいことを言わせてもらうよ。宇都宮城での君の戦いぶりは、まさに鬼神のごとし、だった」