第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……誰が泣かせているのか自覚はあるんですか」
不貞腐れたように呟けば、土方さんは苦笑を浮かべた。
そんな彼は再度私の目元を指で撫でてから、その手を布団の上に下ろす。
「だが、てめえも人の事は言えねえぞ。あの時、俺を庇って風間の前に飛び出しただろうが。殺されてもおかしくはなかったんだぞ?ありゃ、自殺行為だ」
「誰のせいで、ああしたのかご存知ですか!?」
恨みを込めたように言うと、土方さんはそれ以上は何も言えないという顔をして黙ってしまった。
「でも、本当に良かった……。生きててくれて、こうしてちゃんと目も覚ましてくれて」
「……心配かけたな」
意識を取り戻した土方さん。
羅刹と化している彼は普通の薬は効かず、彼の体力が勝ってくれることばかり願うしかなかった。
幸いな事に少しつづだが、傷は塞がり始めていれば少しは楽になった様子が見られる。
だけど、あの鬼殺しの刀である童子切安綱に付けられた傷はなかなか完治はしなかった。
そして、彼が意識を取り戻して数日のこと。
包帯を変える為に、彼がいる部屋を訪れて私はその光景に目を見開かせて叫んだ。
「土方さん!!何をしているんですか!」
意識を取り戻したとはいえ、まだ安静にしていなければいけないのに、彼はあろうことか机に向かって仕事をしているのだ。
「何度、仕事はまだしてはいけないと言えば分かるんですか!?起きては良いとは言いましたが、仕事を長時間していいとは言ってません!」
「そんな長い時間じゃねえよ。これを書き終わったら、すぐに休むさ」
「あのですね、土方さん……!死にかけたんですから、大人しくしててください!」
「誰が死にかけだ。そこまでひどくねえよ。こんなの、かすり傷だ」
「死にかけたでしょう!!私が、どんな思いで看病したと思っているんですか……!?」
まるで子供を咎める母親の気分。
そう思いながら、私は書類仕事をしている土方さんを叱るが、彼は気にする様子もない。
「ああ、わかったわかった」
おざなりな返事を返してくる土方さんに、私は眉間に皺を寄せた。
かなり彼の言葉にはむっときたが、私は大きくため息を吐いてから彼の背後に回る。
「……これだけは羽織っていてください。お身体に触りますから」
土方さんの両肩に羽織をかけながら、私はまた、ため息を吐いた。