第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
ガバッと勢いよく飛び起きて、私は未だに重たい瞼を擦っていれば小さい笑い声が聞こえた。
その笑い声が聞こえる方へと視線を向けて、私は目を見開かせる。
「もう少し、寝てても良かったんだぞ」
「……土方さん?」
「それ以外の誰に見えるってんだ?」
目の前に起き上がって、座っている土方さんがいる。
可笑しそうに目を細めながら笑っていて、私に少し呆れたような目を向けている土方さん。
起きている、生きている。
その事に嬉しさや色んな感情が込み上げてきて、気付けば私の双眸からは涙が溢れ出していた。
「お、おい……急に泣くな」
「泣かせてるのは土方さんですからね!!私、土方さんがあの時死んでしまうんじゃないかって、生死の境を何度もさまよっていて、何度、貴方が居なくなるかって思ったことか!!」
「……それは、悪かった」
「悪かったじゃないです!!本当に、私……私……!土方さんの馬鹿!!馬鹿!!」
私はわんわんと小さい子供のように泣き叫ぶ。
そんな私に、土方さんは困ったように戸惑ったように目を細めながら眉を下げていた。
「おまえぐらいだぞ、俺に【馬鹿】なんて言えるのはよ……」
「馬鹿だから馬鹿なんです!!私が、どれだけ心配したと思っているんですか!!」
涙をぼろぼろ落としながら、私は土方さんを鋭く睨みつけた。
本当に私がどれだけ心配したのか、この人は分かっているのだろうか。
「あんな、無茶してまで戦わなくてもいいじゃないですか……!男性には譲れない戦いなのかもしれませんが、少しは生きる努力ぐらいしてください!!」
「……生きる努力か」
「貴方が死んだら、困る人や悲しむ人がいるんですからね!?私だって、土方さんに死なれたら辛いんです……もう、大切な人は失いたくないのに……」
時折、嗚咽を漏らしながら泣いていれば土方さんの手が私の頭の上に乗る。
そしてぎこちない動きで、彼は私の頭を優しく撫でていた。
困ったように笑いながら、そして目を細めながら彼は私の頭を撫でている。
そして、撫でていた手を止めると私の頬にその手を添えてきた。
(暖かい……土方さんの手。ちゃんと生きてる)
温もりを感じていれば、土方さんは長く骨ばった指で私の涙を拭った。
溢れ続ける涙を何度も拭い、そして親指の腹で目元を撫でてくる。
「お前は、よく、泣きながら怒るな。あんまり泣かれると、困っちまう」