第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
私は土方さんを見つめた。
何時から、この人を気にかけるようになったのだろう、何時からこの人の傍に居たいと思い出したのだろうと考えながら。
「そうなんだね。土方君も、羨ましいかぎりだよ。こんな綺麗な女性にそんな風に思ってもらえるなんてね」
「綺麗だなんて……恥ずかしいので、辞めてください」
大鳥さんの言葉に思わず照れてしまう。
そんな私を見ながら、大鳥さんは小さく笑いながら立ち上がった。
「それでは、僕はここで失礼するよ。また時間があれば様子を見に来るから」
「はい。ありがとうございます、大鳥さん」
部屋を出ていく大鳥さんに頭を下げてから、私はまた土方さんを見つめた。
顔色の悪い肌、そして着物の間から覗く血に染った包帯に私は顔を歪める。
死んでもおかしくなかった。
一方遅ければ、彼は本当に居なくなってしまう所だったのだ。
その事に私は怖くて堪らなかった。
「土方さん……私、もうあんな思いはしたくありませんからね」
そう呟きながら、私は彼の顔をただ見ていた……。
それから三日後。
土方さんは未だに意識が戻らず、私は懸命に彼の包帯を変えたり身体を少し拭いたりと看病を続けていた。
島田さんも時折顔を覗かせては、意識が戻らない土方さんを悲しげに見ている。
(土方さん……意識が早く戻ってほしいな)
怪我のせいで熱がある土方さんの額に、私は濡れて冷やした布を乗せた。
それから急に眠気が襲ってきて、何度か目を擦る。
土方さんの事が気になり、ほとんど寝れていない。
そのせいか寝不足になっていて、気が緩むと強い眠気に襲われてしまう。
少しだけ寝てしまおうかと考えてから、慌てて首を横に振った。
「……土方さんの容態が急変するかもしれない、寝てられないわよ、千尋」
頬を何度か叩きながら、懸命に起きようとした。
だけど三日まともに眠れていなかったせいで、私は何時の間にか眠ってしまったのだった。
「……たくっ、隈が出来るまで看病しなくてもいいのに」
一番聞きたい人の声が聞こえる。
それと同時に、頭を誰かに撫でられる感覚があって、それが幼い頃に死んだ父様に頭身撫でられた感覚に似ている気がした。
心地よい感覚。
そう思いながら、ゆっくりと意識が浮上して目を小さく開いてから私の意識が一気に覚醒した。
「私、寝てた!?」