第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「げほっ!…ごほっ!!」
火の勢いがどんどん増していた。
こめかみから汗が伝いはじめ、先程より息苦しさが酷くなっている。
絶体絶命という言葉が似合う状況に焦っていた時だった。
「副長!雪村君!どちらにいますか!?」
廊下の方から島田さんの叫び声が聞こえた。
その声に私は大声で叫び、助けを求める。
「島田さん!!こっちです!土方さんが大怪我を負っていて、動けないんです!!」
その叫び声を聞きつけた島田さんが、崩れ落ちてしまいそうな大広間に飛び込んでくる。
そして倒れている土方さんを見てから、目を見開かせながら駆け寄ってきた。
「副長!?しっかりしてください!」
「気を失っているだけですが、怪我が酷すぎてこのままでは多量出血で危険ですので、早く手当をしなければ……!」
「わかりました、俺が運んで行きます!君は、俺の後ろをついて来てください!煙は絶対に吸わないようにして!」
「はい!」
島田さんは土方さんの身体を軽々と持ち上げる。
そして私たちは燃え盛る宇都宮城から逃げ出したのだった。
土方さんが決心の思いで落とした宇都宮城。
だけども、その四日後には薩摩・長州・大垣・鳥取などの藩で構成された二万もの援軍が駆けつけてしまい、あえなく宇都宮城は新政府軍に奪い返されたのだった。
戦いの後、大鳥さん率いる旧幕府軍は、一路、会津を目指すことに。
負傷した土方さんは、なんとか一命を取り留めたものの、生死の境をさまよっている状態。
そんな彼はとても戦える状態じゃなかった。
土方さんは、負傷した事により戦線を離脱。
日光の近くで療養することになった。
「ここの民宿なら、安全だよ。暫く土方君にはここで療養してもらう」
「……ありがとうございま、大鳥さん」
大鳥さんは日光の近くの民宿を手配してくれて、私はそこで土方さんに付きっきりで看病をすることにした。
彼はずっと生死の境をさまよっていて、意識も戻ってはいない。
(本来なら死んでもおかしくないけど、何とか生きてくれてる……)
包帯を血で染めながら意識を失っている土方さん。
そんな彼の傍に座りながら、私は眉を下げて彼を見ていれば大鳥さんが小さく息をついたのが聞こえた。
「まさか、本当に宇都宮城を落としてしまうなんて思わなかったよ。軍の者たちは土方君を鬼と言っていたさ」