第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「待ちわびたぞ、この時を!俺に屈辱を与えた貴様を、この手で殺すことができる時をなーー!」
「駄目!!」
私は走り出し、風間と土方さんの間に割って入る。
そして彼を庇うようにしながら風間を睨みつければ、風間は不愉快そうに顔を歪ませた。
「退け、女鬼」
「いいえ、退きません」
「貴様も殺すぞ」
「殺せるなら殺してみなさい。その刀は鬼殺しの刀なのでしょう?私の事は易々と殺せるでしょうね」
風間と睨み合いが続く。
風間は苛立たった表情を浮かべて、刀を私へと振り下ろそうとする。
そして後ろから土方さんの叫び声が響いた。
「退け、雪村っ!!」
刀が振り下ろされる。
そう思った瞬間、耳をつんざくような轟音と共に激しい振動が起こった。
その場にいた全員が目を見開かせていれば、何やら焦げ臭い匂いが漂ってくる。
「この匂い、もしやーー!」
風間は辺りの様子を伺い始める。
大広間には何やら黒いもやのような物まで漂い始め、困惑していれば外から声が聞こえた。
「火事だ!あいつら、退却する時、城に火を放ちやがったぞ!」
「火に巻かれちゃかなわねえ!さっさと逃げようぜ!」
炎はあっという間に大広間まで押し寄せてきて、畳や掛け軸や壁を燃やし始める。
その焦げ臭いと火の熱さに顔を歪め、思わず咳き込んでしまう。
「げほっ!!げほ、こほっ!」
喉が痛い、皮膚が熱い。
何度も咳き込みながら辺りを見渡していれば、風間は未だに手にした刀を下ろそうとしていなかった。
まだこの男は諦めていないのか。
なんとも執着深いと思っていれば、また激しい轟音が響き渡った。
「ぐっ……!」
焼けた天井が落ちてきて、私は思わず身体を引いてから土方さんを庇うように覆い被さる。
瓦礫は当たることはなかったが、土方さんと私、そして風間の間に落ちていた。
「くっ……」
「くそ……、崩れ始めたか。これ以上ここにいると、我が身も危うい……」
風間はそう呟くと童子切安綱を鞘へと収めた。
「……土方とやら、この場は預けてやる。勝負はまたの機会としよう。次こそは、貴様の息の根を止めてやるからな。せいぜい楽しんでおくがいい」
残虐な笑みを浮かべた風間はそう言い放つと、大広間から姿を消した。
その事に少しばかりの安堵を覚えながらも、私は自分の身体の下にいる土方さんに呼びかける。
「土方さん!大丈夫ですか!?」