第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
肩や胸からおびただしい量の血が溢れ続けているのに、土方さんは立ち上がろうとする。
その姿に私は思わず唇を噛み締めた。
(このままじゃ、本当に土方さんが危ないっ!)
ここで死なせてはいけない人。
彼には絶対に死んでほしくないという一心で、私は土方さんへと叫ぶ。
「土方さん、もう駄目です!重症を負っている中で、それ以上羅刹の力を使っては!!」
怪我だけじゃない、羅刹の力は寿命を削る。
そう思いながら土方さんへと叫べば、彼は私へと視線を寄越した。
彼のその瞳には強い決心が宿っている。
だが、その眼はすぐに私から風間へと向けられた。
羅刹化したままで、風間を真っ直ぐに睨み付けている彼に私は眉を寄せる。
「……てめえの命がどれだけ削られようと、どうでもいいさ。ただ、ここでこいつに殺されてやるわけにゃいかねえ。今まで、命懸けて作り上げてきたもんを、こんな奴に……、こんな刀ごときに、ぶち壊されてたまるかよ……!」
「その身体で一体何ができるというのか……。見苦しさ、ここに極まれりだな」
風間は嘲笑うと、童子切安綱を振り上げる。
そして童子切安綱はまた土方さんを切り裂いた。
「ぐぁっ……!」
童子切安綱は右肩を切り裂く。
そして土方さんはあまりの出血と痛みで、ついに刀を握ることが出来なくなり、和泉守兼定を取り落とす。
彼の洋服はもう血みどろになっていた。
「……もう少し楽しませてもらえると思ったが、そろそろ別れの時のようだな。もう、憎まれ口を叩く体力も残っていないか」
土方さんは肩で息をしながらも、風間を睨み付けていた。
「どうした?刀を取らんのか。武士の意地とやらはどこに行ったのだ」
「ぐ……!」
息をするだけでも痛むのか、土方さんは顔を歪ませながら刀へと手を伸ばす。
今にも倒れそうになりながらも、必死に歯を食いしばって風間と対峙する。
彼が急ぐ度に畳に血が落ちる。
もう彼の足元の畳は、元の色が分からないぐらいに赤黒く変色していた。
(駄目だ……これ以上戦えば土方さんの命が危ない)
彼を庇うべきか、なんとか風間の気を削ぐ事をするべきなのか。
私に何か出来ることはないかと考えながら、眉間に皺を寄る。
そんな中で風間はまた童子切安綱を大きく振り上げ、狂ったように笑いながら叫ぶように言い放つ。