第3章 巡察【共通物語】
「私がこの店の主人ですが……本日は一体、どのような御用向きで?」
「……わかりきったことを。何でもおまえは、この店に尊皇攘夷派の浪士を出入りさせているらしいではないか。一体、何を企んでいる?答えによっては屯所に連れ帰り、詳しく詮議させてもらうぞ」
確か、尊皇攘夷派というのは天皇を尊ぶ【尊皇論】と外国勢力を追い払う【攘夷論】が結びついた運動をしている人達のこと。
孝明天皇の許可なく、幕府が日米修好通商条約を結んだことに批判が高まりできたものだと聞いた。
だから、尊皇攘夷派の浪士たちは幕府によく思われていない。
「滅相もない!そのような者を出入りさせたことなどございません!」
「そう、つまり我々新選組がでたらめを言っていると、そう申すのだな?」
「い、いえっ、そういうわけでは……!」
武田さんの言葉に主人は怯えきった表情で、震えて冷や汗を流している。
そんな主人を尻目に、武田さんは店内を見回し始めた。
彼に気付かれてしまえば、また面倒くさい事になりそう。
そう思い、私は慌てて身を伏せて武田さんに見つからないようにすれば武田さんは私に気付かなかったようで再び店主に歩み寄った。
「……我々とて、善良な民の商いの邪魔をしたいわけではない。おまえの態度によっては、隊への報告を取りやめてやっても構わんのだが……」
「それは、つまり……」
「おまえの誠意を見せてみろ、と言っているのだ」
武田さんのその言葉に、お店の主人は震えながら生唾を飲み込んでいた。
詳しいことは言ってはいないが、要するに袖の下を渡せという意味なのだろう。
「そ、そのようなことはできません!そもそも我々には、何もやましいことなどありませんからーー!」
「何だと?貴様、京の治安を預かる新選組に楯突くつもりか?」
「いえっ、決してそのようなことは!」
「屯所まで連行する。浪士共の手助けをしているに違いない。連れ帰って、口を割らせてやる」
「そ、そんな……!」
あまりにも酷い。
このままでは、このお店の主人の人がと思い、思わず声を上げようとした時だった。
不意に誰かの手が私の肩へと乗せられる。
「……駄目ですよ、女の子が危ない真似をしちゃ。大怪我するから」
「……え?」
耳元で声がして、慌てて顔を横に向ければ、まるで錦絵から抜け出したような整った顔立ちをされたお武家さんがいた。