第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……思ったより手間取ったが、ま、予想通りだな」
「副長の采配、お見事でしたよ!弾の嵐の中を突っ切っていく姿は、まさに武士の鑑でした!」
「……おだてたって、何も出ねえよ。それに、まだ城が落ちたわけじゃねえ。気を引きしめてかからねえとな」
「……そう、ですね」
私は土方さんの姿を見ながら安堵していた。
この戦は勝つ保証はないと思っていたから、彼が宇都宮城を落とすと言った時は死に急いでるのか自暴自棄になっているのかと不安になっていたのだ。
でも、それは違ったのかもしれない。
土方さんの言葉で、彼は本当に城を落とせると思っていて戦ったのだと思ったからだ。
(私の勘違いだったのかな……)
なんて思っていればいつの間にか、幕軍兵の人々が私たちの周りを取り囲んでいた。
「土方さん、素晴らしい戦いぶりでした!まさに、源義経が蘇ったようで……!さすが新選組の副長です!」
「我々は、あなた方を誤解していました!申し訳ございません!離脱しようとしていた兵士を斬ったのは、我々を勝利に導く為……これ以上の離脱者を出さない為だったのですね!」
「あなたの下で戦えることを、誇りに思います!あなた方こそ、本物の武士だ!」
彼らが土方さんたちに向ける眼差しは、合流当初に向けられていた好奇心と恐怖心が含まれたものとは違った。
「こ、これは……、一体どういうことなんでしょう?」
島田さんは驚いたように、そして戸惑っているようにしていた。
そして土方さんは少し困ったような表情を浮かべているが、青ざめて不機嫌そうにも見える。
「土方さん、大丈夫ですか?」
羅刹なのにも関わらず、彼は昼の太陽の元であれだけ激しく戦っていた。
そのせいで恐らくだけども、かなり体力も限界に近いはず。
(それに、血を大量に浴びてるから、吸血衝動が起きてもおかしくない)
不安げにしていれば、土方さんは小さく笑った。
「……大丈夫に決まってんだろ。城を落とすまでは、死ねねえさ」
笑ってはいるが、土方さんは青ざめた顔で額に滲む脂汗と返り血を拭っていた。
そして再び、兵士たちを見る。
「先鋒軍は俺に続け!日暮れ前には、城に攻め入るぞ!」
「「「はいっ!」」」
日暮れ前。
土方さんが率いる先鋒軍は、宇都宮城へと攻め入った。
堅固な城壁に阻まれていた時とは違い、幕軍兵たちの士気は高い。