第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
その後、土方さんは最前線に飛び込んで鬼神のような動きで次々と敵兵を斬り捨てていく。
「ぐっ……!」
「ぐはっ……!」
彼の愛刀である、和泉守兼定は赤く血で染まる。
だけども彼はそんな事は気にすることも無く、続けざまに敵を斬り伏せていった。
そんな彼を私は物陰に隠れながら追いかけていく。
(傍を離れたら、彼がもし無茶をした時に止められない。それに、弾が当たっても私は幸い鬼だからなんとかなる)
そう思いながら、必死に彼を追いかけていく。
そんな時、駆けつけた島田さんが土方さんへと叫んだ。
「副長!あと少しで、城門を崩せそうです!」
「おう!頼りにしてるぜ、島田!」
敵方はひっきりなしに銃撃しているが、旧式のせいなのか思うように狙いが定まらないらしい。
それでも、銃を持った敵に向かっていくのはかなりの恐怖心があるはずだが……。
(土方さんは、平然としてる……)
土方さんは平静な表情を浮かべ、銃を手にした兵たちを片っ端から斬り伏せていった。
今は昼まで羅刹である彼は辛いはずなのに、それを感じさせないぐらいの戦いぶり。
「す、すげえ……」
「あの人は、本当に人間なのか?地獄から這い上がってきた、鬼なんじゃねえのか……?」
幕軍兵たちは、土方さんの戦いぶりに食い入るように見ながらもどよめく。
鬼神の如く戦う彼は、幕軍兵たちが今まで見てきた武士とは全く違うから尚更、驚いていたのだろう。
そんな彼らに土方さんが叫んだ。
「おい、おまえら!そろそろ敵兵の弾も尽き始めたようだぜ!気合い入れ直せよ!」
味方の陣に檄を飛ばすと、土方さんはすぐに最前線へと飛び込んでいった。
そんな彼に影響されたのか、幕軍兵たちの顔色が変わる。
「こ、この戦……、もしかしたら、勝てるんじゃねえか?」
「そ、そうだ!勝てるかも知れねえぞ!新選組にーー、土方さんに続け!」
人というのは本当に単純だ。
勝てると思ったり、希望が見えればあっという間に心情が変わるのだから。
さっきまで怯えて動けなかった人間たちとは思えないほどの熱がこもりはじめる。
そして、昼が過ぎた頃。
ついに城の大門が開いたのだった。
「開いた……!城の大門が開いたぞ!」
「勝った……?俺たちが、勝ったのか?」
その知らせが入った瞬間、陣中が一斉に騒がしくなっていた。