第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「……この調子だと、大した苦労もなしに落とせちまいそうだな」
「そうだと、良いですね」
土方さんが勝利を確信しながら言った矢先の事だった。
慌てた様子で島田さんがこちら側へと走ってくる。
「副長、伝令です!大広間の部隊が、苦戦しているとのこと!」
「苦戦だと?」
「詳しいことはわかりませんが……、俺が様子を見に行ってきましょうか」
「いや、俺が行ってくる。ここは頼んだぞ」
急に胸がざわつき始める。
何だか嫌な予感がして、私は思わず顔を顰めている中で島田さんは土方さんの言葉に頷いていた。
「はい、わかりました!」
土方さんから離れない方がいい。
嫌な予感なのは的中してほしくないけれども、土方さんを何だか一人にしてはいけないような気がした。
そして私は眉間に皺を寄せながらも、彼へと向き直る。
「土方さん、私も大広間に一緒に行きます」
「……まあ、一人で戦場をうろちょろされて、流れ弾にでも当たられちゃ夢見が悪い」
「……私、弾が当たっても平気ですよ」
「それでも、夢見が悪いんだよ。……行くぞ」
嫌な予感を感じながらも、私は土方さんと大広間へと向かった。
城の大広間は異様な雰囲気に包まれていて、敷き詰められた畳の上には、味方である先鋒軍の兵たちが折り重なって倒れていた。
驚きに目を見開かせていれば、脳が警鐘を鳴らす。
心臓が嫌なぐらいに激しく鳴り、私は最悪なものを折り重なる兵士たちの死体の中心で見つけた。
「……やれやれ。こんな所にまで来てやがったのか。薩長と幕府が戦をやってるってのに、優雅にご旅行か?鬼ってのは、よっぽど暇らしいな」
「……風間と天霧!?」
広間の中心に立っていたのは、最も会いたくもなかった風間と天霧がいたのだ。
「何で、ここに……」
「我々は薩摩藩の命で、密書を届けに参りました。……まさか、戦に巻き込まれるとは思いませんでしたがね。しかもその場に、君たちも居合わせていたとは」
「つまり、新政府の連中の使いっ走りをさせられてるってことか。鬼ってのは、誇り高いんだな」
土方さんは挑発するような言葉を放ち、乾いた笑みを浮かべていた。
だけど私は額にじやりと冷や汗を浮かべながら、嫌な予感や胸騒ぎはこの鬼たちが原因なのかと思いながら、息を飲む。