第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「何となく、さっきの大鳥さんとの会議で、土方さんが自暴自棄になってるような……死に急いでるような気がしてしまって」
私の勘違いであるなら、その方が凄くいい。
だけどこれが勘違いじゃなかったら、もし本当に土方さんが死に急いでいたり自暴自棄になっているなら、それを止めなければ。
不安を抱きながら、私は土方さんの背中をじっと見つめた。
すると土方さんは肩を大きく動かしながら、ため息を吐くと私の方へと振り返る。
「別に、死に急いではいねえよ。自暴自棄なのは……どうかわからねえけどな」
「……本当に、死に急いではいないんですよね?」
「……ああ」
彼は乾いた笑みを浮かべていた。
その笑みに多少の引っ掛かりを感じていれば、土方さんがこちらへと歩み寄ってくる。
そして彼は私の頭を軽く叩いた。
「要らねえ心配してんじゃねえよ。おまえは、俺に頭を悩ませる前に姉の心配でもしてろ」
それだけを言うと、土方さんは私に背を向けてまた歩き出した。
彼のそんな後ろ姿を見ながら、私は未だに拭えない不安に眉間に皺を寄せたのであった。
そして、四月十九日。
宇都宮城は激しい戦火にさらされたのであった。
宇都宮城攻撃軍は約二千人、迎え撃つ宇都宮城の守備兵は約七百人。
とくに激戦となった下川原門は、幕軍約千人に対して守備兵は約四百人。
二倍以上の兵力で攻め込むことになった。
だが、敵は城という盾に守られている為か戦場は膠着状態に陥っている。
戦場には銃弾が飛び交い、敵味方の兵士たちの断末魔の悲鳴がこだましていた。
一方、土方さんは自軍の幕兵二百人ほどを振り返り、指示を出す。
「……このままじゃ、キリがねえ。そろそろ、敵陣に突っ込んでもいい頃か」
「敵陣に!?何を言ってるんですか!向こうは、銃を持ってるんですよ!?」
「奴が持ってるのは、薩長が使ってる新型の銃とは違う。少し離れりゃ当たらねえし、命中精度も低い。それに、弾の一発や二発当たったところで、すぐ死ぬわけじゃねえさ」
私は、陣営に最初は置かれる予定だった。
だけど何となく土方さんが心配で、怒られたりしたが無理言って彼らが潜む林の所から少し離れた場所に待機させてもらっている。
(怪我人も治療できるし、ここなら弾はそうそう当たらないって土方さんも言ってた……)
後は彼が無茶をしないかどうかを見ていなければだ。